「正直どうでもいい?」

漫画 音楽 娯楽

夜に静かに飛び散った、ぼくらのSNSミュージック『バジーノイズ』1巻

バジーノイズ (1) (ビッグコミックス)

バジーノイズ (1) (ビッグコミックス)

  • 作者:むつき 潤
  • 出版社:小学館
  • 発売日: 2018-09-12

 

しゃらくせぇ~~~~~~!!!でも好きなんですよねこういう漫画。ナイーブで、さみしげで、都会的で。シティポップを具現化したコミックスです。最近ので言うとSHE IS SUMMERとかLUCKY TAPESとかAwesome City Clubとかのライン。あとサチモスとかナルバリッチとか。この並びで

「キェ~~~~~!!!!!!」

[youtube https://www.youtube.com/watch?v=BiBTpQPCMtg&w=560&h=315]

「しゃらくせぇ~~~~~~!!!!!!」

[youtube https://www.youtube.com/watch?v=EjM7Trs3aB4&w=560&h=315]

ってなったらまぁはい。よしたほうがいいかもしれません。でも両方とも名曲です。オタクでも「ずっと真夜中でいいのに。」をネタに話すときに「おまえ・・・ど、どっち?」と相手の出方を伺うように、音楽も漫画もなにを嗜むかでマウントを取られかねないこの時代。大変な世の中ですよ。こちとら岐阜の片田舎に住んでんのにな~にがシティポップじゃ。眩しすぎるわ。

まぁでも、1話が試し読みできるのでせめてこれだけでも。↓

https://bigcomicbros.net/comic/buzzynoise/

のっけからエラくサクサク読めますよね。ずっとそんな感じです。コミックス1冊に1時間とかかけることもある俺もこの1巻は20分で読めた。でももう5回くらい読み返しちゃってる。

良くも悪くも空白がおおい作品なんですよ。絵的にも物語的にも、作風も。 余韻感じれたり、感覚的な感情表現とも取れるし、ひとによっては薄っぺらに感じられてしまうかもしれない。

とある番組で南海の山里が言ってた、嫌いな女の特徴の一つに

やたらと空の写真とかのっけて改行ばっかりのポエムブログをアップして自分にはアーティスティックな感覚があるように見せようとしてるけど改行とっぱらった瞬間に自分になにもないことに気づいちゃうのが怖いんですよそういうヤツは、ってアツく語ってたんですけど、

そういう類の「空白」なんですよ。

作品としてそう悟られてしまうのってわりと致命的だとも、思いますね。

(こういう改行)

でもそれ込みでも愛してしまう領域までこの作品は届いてるように感じる。ネットで無料でいくらでも音楽を聞けるこの時代だからこそ、こういうファッション感覚の軽さが逆にこの作品の持ち味になっている気がする。決して否定されるべき要素ではない。白地が多いことはスカスカだってことと同義ではない。

とはいえ軽いだけでは作品として長く読み続けようという気もなかなかなり辛いのも事実。1巻として空気感を見せる役割は十分に果たされているわけで、これからのキャラクターの深化に期待したい所。オシャレな見た目で、実はドロくさかったり情念がこもってたり、カッコよく取り付くまでもないほどの失態を犯したり、なんかしらフックようなものが欲しい。

作中でも言われていたように、イイカンジのカバーアレンジだったり弾いてみた歌ってみた踊ってみたってその手の創作は毎秒どこかで生まれ落ちているこの時代。ネットで一瞬盛り上がってすぐに消費されていくだけの存在からどう一歩踏み出せるかっていう所が、皮肉にもこの作品にも似たことが言えてしまう。3巻くらいまでのこの物語がどうなるかを見守って、そこできちんと自分の中でこの作品を評価したい。

でもこれだけSNS世代の現代的な作品でありつつも、装丁がばっちりと気合入っているのが嬉しい。CDジャケットのようなカバーもお気に入りだし、書籍としての存在感が抜群。完成された佇まい。デザイナーさんすごい。モノではなくデータで、なんなら無料でだって楽しめてしまうのはいまや音楽も漫画も同じ。だからこそ、実際に手にとってはじめて味わえる感動というのも間違いなくあって、いまやその"感動体験"に我々は対価を払っているのだと思う。リスペクトが感じられるような装丁がちゃんとしてある本は大好き。体験にお金を払うからいまやこんなに音楽イベントだらけになったんだもんな。

 

 

 

 

 

 

……さっぱり作品の説明をしないうちに話が脱線しまくってました。

マンション管理人の仕事をしながらこじんまりと自分のための音楽ライフを満喫していた主人公、清澄。しかしバンドマン好きのやんちゃヒロイン、潮の登場により、彼の平穏は大きく掻き乱されていく。とりあえず職はなくなり住まいも追い出されたので、流れで潮の部屋に居候中。

自分の部屋で自分のためだけに音楽を作っていた彼にとって、潮をはじめ、音楽の邪魔をする存在はすべてノイズでしかない。疎ましく感じているとき彼のそばには黒いモヤがぐちゃぐちゃっと描写される。

環境や感情におけるエフェクト表現がなかなか特徴的ですよね。さっきの主人公がストレスを感じたときの黒いモヤだったり、音楽が流れているのを表現する円形だったり。音の聞こえないメディアだけども、なんとなく雰囲気とか伝わってくるもんな。エフェクトの使い方をいろいろ模索しているようで、それを読んでいく楽しさもある。

BUZZY13

このシーン、主人公がとんでもなく落ち込んでるシーンなんですけど、ふだん外部に放出されているモヤが彼自身のなかで発生しているんですよね。そして繰り返される、自分を慰めるためのモノローグ。そしてノイズでしかないはずのモヤが、視界を埋め尽くしていく…。ノイズ表現がたんなる彼のストレス表現だけではなく、彼を縛り付けるものの象徴としても描かれる。

主人公は清澄はきほん悲観的です。音楽で儲けようなんて思っていない。一般の仕事をして最低限の収入を得て、ただ一人遊びに高じていたいだけ。彼の言う言葉はとてもリアルなのです。SNSや動画サイトを中心として、あたらしい音楽を発信するもキャッチするも恐ろしく容易になった。ネットにあふれるアマチュア楽家たち。そんな時代に音楽で食べていくことがどれだけ困難か………まぁでも、音楽で食べていく現実をこんなに語れるなら、清澄もいちどは考えてしまったことがあったと思うんですよ。好きなことをして生きていく。…一握りの人にしか許されないそんな夢を。けれど現実を見て、諦めたのだ。

彼は音楽を本気で本当に好きだけれど、だからこそ距離を取りたがる。音楽だけで生きていないけれど、それが叶わなかったときが恐ろしい。真っ当で最小限に暮らしと、"ただの趣味だし"って言葉で自分を守る。現実を、悲しい言葉で卑下する。純粋に音楽がしたいだけって言葉もきっと嘘じゃない。でも挑戦なんてはなからしようとも思わない。そういうリアルな若者像が見せつけられる。きっとこの日本に、同じようなことを言っている人が3万人くらいいる。

でも潮ちゃんがいい娘なんですよ。空気よめねーけど。いい娘なんですよ… ゴチャゴチャ評論家気取りの小難しい千や万の言葉より、 いっこの「すき」が最強だったりする。

BUZZY11

彼女が勝手にSNSでアップした清澄の演奏が、しずかにSNSで拡散されていく。電波に乗らない伝播こそ、今の時代の象徴と言えますね。ふとんでゴロゴロしながらスマホのスピーカーで聞く、切り取られたたった数十秒。favしてRTして、人から人へと手動で届けられていく。たったひとつのtweetが、夜に静かに飛び散っていく。 狭い部屋の小さなマシンから、届くはずのない彼方まで。

自分もよくTwitterでMVだったり演奏動画を張りますけど、あるいは見てくれている人に届いてくれたらいいな、好きなものを共有したいなという思いもある(個人用のアーカイブでもある)。そういう点でこの作品で見ている風景は本当に毎日みているものだから、ちょっとおののく。

広がりだした彼の世界は、ちょっとだけ鮮やかに、たしかに騒々しく。 今の彼はきっとノイズすらも音楽に取り込んで見せる。愛すべき傍らの喧騒。

 

BUZZY12

 

 

あとは・・・スペシャルサンクスに地下室タイムズがあるので、うまいことメディアを使ってしゃらくさい音楽好き内でバズってくれるといいんですが。俺もあのサイト大好きなんですけど、あのサイトからバンドを知ったとバレたくないっていうサイトなんですよね・・・あたらしい音楽の発掘にすごく助かるサイトなんですけど・・・「あっお前地下室タイムズで知ったクチ?」ってバレたくないじゃん・・・・・・とかそういう面倒くさいこだわり持ってるしゃらくさい連中におすすめです。(話題が狭すぎる)

 

 

 

[youtube https://www.youtube.com/watch?v=vm_gCBsyFQ8&w=560&h=315]