「正直どうでもいい?」

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その夜にすべて混ぜて 『みやこ美人夜話』

 

B07C2KH9XS みやこ美人夜話 (FEEL COMICS) 須藤佑実 祥伝社 2018-04-07by G-Tools

 

『ミッドナイトブルー』の作家さんの新作作品集。今回は京都と舞台にしたオムニバスで、ホロリとくる人情もの、ホラーテイストに切ない恋模様、なんでもありで全部いっこの鍋に投入している感じ。

著者三冊目となりますが非常にこなれ感があるというか、余裕を感じさせる作品が揃う。初単行本だった『流寓の姉弟』も染みる本でしたが、エンタメ方面よりも人の情緒に深く訴えかけてくるような、チャチかもしれない言い回しなので多用したくはないけれど、素敵なんだよなぁ。この作風でどんどん進化あるいは深化していって欲しい。

あとはフィールコミックスさんらしい、ちょっとこだわりを感じる装丁の妙。これも作品によく合う。このコミックスの黒印刷ってほかの本とは少し違うよう感じます。ちょっと赤みがかってこげ茶色っぽく見えるというか。そういう遊びごころも心のひだをくすぐるわけです。

様々な路線の作品が収録されてますがぶっちぎりで好みなのが第4夜。 主人公は女子高生。大学講師をつとめている父親の生徒である”おゆうさん”に京都を案内してもらうことになり、始まる交流。

想いを伝えたこともない。ましては体を重ねたことだって、あるわけがない。 それでもたったひとつの秘密の関係を結んでしまった。 冗談のような始まり方で、お互い映画好きという理由で一緒にでかけた。

だれに対してでも、きっと無く。 ただただ自分自身のゆずれない、ゆるぎない想いを美しく保とうと 身を裂かれんばかりの切なさに耐え、彼女は告白をするのだ。 これは浮気なのだと。

それはひとつの決意も含まれているように感じられる。教師である彼にそんなつもりは毛頭なく、けれど女性側から「これはきっと浮気だから」と関係に終止符を打つ。あなたについて特別な感情を抱いていますという証左。そしてそれを伝えたら関係は終末を迎えるのだ。

いじらしい女性の甘酸っぱい失恋。そしてそれを、想い人の娘に話すという決着。はぁ、物語も語り口も筆致もなにもかもがひんやりとしている。爽やかで、心をなでられると寂しくなる。最高だ。ラストシーンも最高だ。実質百合漫画でしょ。

夜話2

女性同士でしか共有しえない秘密。いや、彼女たちでしか。

 

本作の軸となるキャラクター、ミヤコさんをフィーチャーした本編最終話もほっこり。 いわゆる京美人(外見も中身も)でシンボリックな女性なんですけれど、遠い日々に置き去りなままの女心が明かされたとき、もうため息が出てしまうくらいこの人は美しい人だなと感じた。ワンコ的な主人公がどんなにがんばって(つきまとって)も、スルリとにげて捕まえられそうにない訳。こういう心閉ざした女性のエピソードはどことっても好きなのよな。

あくまでも自分の内面の問題であって、秘密にしたままだし、きっと彼女はきっとずっと秘密にしたまま生きていくんじゃないかなとも思う。そういう在り方は切なくて、そしてとても強くて憧れがある。

 

夜話1

 

櫛を送るという風習はなんとなく映画とかで見たことがあったが、意味まで深くは知らなかったので調べると、櫛=苦死という言葉遊びから「いっしょになれば、辛いこともあるでしょう。それでもあなたは良いですか?」的なアレらしい。アレらしいというのは他にも諸説ったり離婚のときにも登場したりするらしいので、まぁ思いだしたら続きはまた調べてみよう。おそらく一般常識なことなので知らなくて恥ずかしい。

まぁしかし、そういう婉曲的で遠回しな愛情表現にしたってお江戸文化的なやつってのはどうもやっぱりイキですな。いじらしさと一緒に切実な願いかけのようなものが込められてるのも多くて、ルーツを調べてみるとキュンとくるものも多い。あ、江戸じゃないか。京都だったわ。

 

ともかく、非常に日本的な情緒を味わえるいい作品集じゃないでしょうか。 徐々に電子書籍に移行しつつある自分ですが、この作品は紙で買って正解だったな。

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