「正直どうでもいい?」

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ここにいたいよ『春とみどり』1巻

春とみどり(1)

春とみどり(1)

 

『春とみどり』1巻が発売されました。WEB掲載のときから楽しみにしていましたのですが1冊でまとめて読むと、あまりにセンチメンタルでやさしい。思わず読みながら何度も顔を伏せてしまった。 これを4月に発売するというタイミングも憎い。狙ったんだろうか。

ひとまず、この第1話を読んでほしい。

とても出来がいいし、節々に感情をたっぷりと含ませた間があって実にポエミー・・・こういうの大好きなんだよな。

https://comic-meteor.jp/ptdata/haru/0001/

 

「春がずっと嫌いだった」 ささやくような呪いの言葉から幕を開ける物語は、ひとりの女性と、それからずっと年の離れた少女の交流を描いていく。 31歳のOLの主人公みどりは、周囲に馴染めないままひっそりと暮らしている。 春、突然の報せが届いた。 いちばん好きだった、大好きだった、かつてのクラスメイトつぐみ。 密かな想いを寄せていたその親友がこの世を去った、らしい。 しかし向かった葬式で、ひとりの少女をみて呆然とする。 14歳の少女は春子<ハル>。つぐみと瓜二つの彼女は、つぐみの娘だった―――

身寄りのないハルをみどりは引き取ることを宣言。 初対面で、相手は大好きな親友の娘で、いびつに突然にふたりの同居生活がはじまる。

ストーリーは入り組んだところはないけれど、とにかく見せ方がうまいので表情も言葉も刺さる刺さる。さらさらと流れるように読めるのに存外にフックが多い印象。 正直言ってこの仕上がりっぷりで新人作家さんの初連載ってマジ?ってなる。 個人的に喪失を描いたストーリーはモロに性癖。「喪失によってつながる人間関係」最高なんだよな。疑似家族も大好き。もっと寂しさを共鳴させてほしい。もっとおどけた生活に癒やされてほしい。もっと痛みを隠して、それでも微笑んでいてほしい。

春とみどり11

つぐみへ寄せる想いの強さは計り知れないみどり。 普段は弱腰な彼女が、モノローグだけでも「私がいちばん」と言えるくらい 彼女にとってどれだけつぐみが大きな存在だったか。 清らかなだけではなく、信仰心、むしろ強い執着心のようにも感じられる。今は素振りもないが、どこかでみどりのこの危うさが炸裂しないことを願いつつ、そうなったら面白そうだなとも思ってしまうな・・・。

 

一方でハルはつよい少女として描かれている。 母親を亡くし身寄りもいなくても彼女は涙を流さない。その事を心無い参列者たちに陰口を言われても、彼女はじっと口を閉ざした。耐え続けた。

読み返してみると明らかに第一話のころのハルは目つきが通常よりも鋭いというか、険しい顔をしている気がしますね。 そこから徐々にやさしくなっていく。みどりとの生活の中で少しずつ笑顔を取り戻していく。しかしまだ彼女はきっと悲しみを受け止めきれてない。飲み下させてないし、もちろん消化もできてない。キャパを大幅に超えた悲しみと、新生活への戸惑いがまだ彼女のなかに強くあるように思う。 そりゃあフィクションの中で身寄りのない少女なんてたくさん出てきますし、だからといって彼女たちに悲しみがないなんてことはありえないわけで、一人ひとりの中に堪えきれないほどの絶望は息づいているのだ。

第一話で描かれることのバックボーンに、中学卒業以降おそらくつぐみの都合で離れ離れになり、二度と会えなかった事がすけて見える。 つぐみの家庭環境の秘密は、今後のみどりとの日々との関係してくるはずだし、今後のキーとなってくるだろうとは思う。

みどりもハルも、違った角度から「つぐみ」という存在を失った喪失感を抱えている。 それが反響させながら、いくつも思い出をかざしながら、少しずつ温度を取り戻していく。このゆっくりとした空気と、そこに漂う救いの光のようなきらめきが、めちゃくちゃに心を切なくさせるのだ。

春とみどり12

きっと長い付き合いになるだろうと思う。 だからこそゆっくりでいい。ゆっくりがいい。初対面から始まったこの奇妙な関係を、少しずつすこしずつ味わっていこう。

 

冒頭にも書きましたが、感情の含ませ方がとてもうまい作品。 全体的に淡いパステルカラーような感覚の物語なんですが、その中でハッとさせられる場面がとても多い。演出面がうまくストーリーも盛り上げてくれている。 この甘酸っぱい空気。けれど容赦なく突き刺す喪失の傷。このバランスが感覚がたまらないんだよな。2巻以降も楽しみな作品です。 「あなたのいない春なんて」 けれど今、あなたが世界にのこしてくれた体温に触れている。 こんなにもそばで息をしているのだ。想いを告げられないまま。あなたの微笑みを思い出しながら。

 

春とみどり13

余談ですがメロブ特典のカバーもいい。見比べると、つぐみと春子とではやはり表情がまるで違う。いつかハルも、母と同じように笑えるといい。

 

 

 

[youtube https://www.youtube.com/watch?v=I34Zdec6RWk&w=560&h=315]