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どうか教えてくれ、あの夜の答えを・・・! 『やれたかも委員会』2巻

4575313483 やれたかも委員会 2巻 吉田 貴司 双葉社 2018-03-28by G-Tools

待ってましたの第2巻。ネットでも追っているんですけど、なんとなくこの作品は紙として、手にできる形で持っていたくなる。

いやはや人気もうなぎのぼりで早くもドラマ化なんかしちゃいましたよ。でもドラマ向きな題材ですよね。個人的には『世にも奇妙な物語』形式で年に2回、2時間スペシャルで再現ドラマを4,5本やってくれるような感じでやってくれないかなと思ってます。

いまさらどんな作品かって説明しないしたぶんタイトルで想像できる通りなので省きますが、1巻より増して胸に迫る、甘酸っぱい「やれたかも」な夜が詰まってますね・・・まぁこういった切なくも虚しいエピソード群を「男ならだれしも」的な論調で語られるのも参るのでやめてほしいんですけど・・・空虚な人生を見つめ直すしかなるなるので・・・ともかく、いい夜がギュッと詰まった、センチメンタルな一冊。

 

第9話は自分探しの旅的なやつでインドを訪れた先でのインターナショナルなやれたかも。一夜だけどころか、国すら違うことで余計に「あのとき、ああ出来ていれば・・・」という後悔が重く遠くなってるのがいいシチュですねぇホント。でもこういうのを読むと、ホントにやれていたらなんもいい話じゃないんだよな。やれなかったけれど、きっとあの娘は心を開いていてくれていたはずなんだ。そんな思い込みかどうかもしれない淡い期待が、美しい思い出になるんだよな。引きずり続けて韓流アイドルおっかけになってたり、ラストの審査員月満子の総評がバッサリすぎて気持ちよかったのもいいオチ。

 

第10話。カラオケにとつぜん乱入してきた女の子とのやれたかも。「え、そんなことある?」っていう現実感のなさと突然放り捨てられるような寂しさあふれるラストの流れも秀逸。淡々とカラオケ店内を描写する1ページに「やれたかも委員会」の魂のようなものを感じる。あとこのエピソードの月満子のコメントが2巻までの全話中イチの切れ味でまた最高なんですよ。その瞬間に、夢中になって掴み取ることが出来ていなかった。ストンと腑に落ちる・・・

 

第11話。映画友達になった女の子とのやれたかも。全然そういう話しもしたことなかった関係でこの夜の選択肢をただしく選ぶことができる勇気とセンスがあったなら、きっとそいつは恋愛以外でも大成できる人間なんだろうな、と感じる。瞬発力、大事。 でもこの2人は「やれたかも」以外という気持ち以外でもつながってるもんな。映画を見たいくつもの時間と、語り合ったいくつもの夜がある。性欲に突き動かされないままに共有した時間がある関係って好きだな。致命的にチャンスを逃した瞬間が明確なのもスッキリできる。いつ間違えたのかも分からないほうがいやだ・・・

 

第12話。会社の後輩とのやれたかも。これはもう完全に許容、承認の話で。ちょっとマニアックな趣味にも引かずにむしろ楽しんでくれちゃったりして、自分の臭い布団をかぶっても「くさいっス へへへ けど悪くないかもです」なんて言ってくたりしたらもう、あまりに自分を許してくれすぎて俺だったらたぶん告白するまでもなく泣いてるわ。でも勢い余って告白してなかったらどうなってたのかなーという感じもあるエピソードだ。駆け引きとはかくも難しい。

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第13話。大学の先輩とのやれたかも。あ~~~大学で女の先輩とこんな空気になってみたかった~~~~サークルでスマブラやってアニメ見るしかしてなかった~~~~~・・・・ このエピソードのキモはやれたかもという後悔もあるけれど、あの一夜のせいで自分のチンコにコンプレックスが強くなってる主人公。満足させることができなかった挫折感。そしてどのチンコを彼女が選んだかも知ってしまってる環境も地獄みが強い。

 

第14話。付き合ったばかりの彼女とのやれたかも。やはりこの作品の面白さって、昂ぶった感情がいかに行き場を失うか、なさけない選択肢をとってしまうのか、台無しにする失敗をしてしまうかって所だと思うし、最後で月満子が言うように面白みが少ないと言えば少ないんだよな。初々しくダメージも少ないがゆえに。 ああ、でも、ラブホでニットの上着を脱ぐときにパチパチと静電気が鳴って、まるで祝福を受けているように錯覚するシーンの臨場感は、たまんねーな。

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第15話。久しぶりに女性からのやれたかも。婚約はしているが、それでも好意を寄せてくる年下男性と一度だけデートにでかけた先で・・・というちょっと背徳感のある導入から繰り出される強打の数々。そっと繋がれた手。入籍前の一度きりのお出かけ。遠ざかる太陽の塔。どれもこれもがエモーショナルの火が灯っている。 抱きしめたときの彼の尻ポケットに手を突っ込んだあたりも、体験談だからこそのいいエピソードだなぁ。ぜんぜん必然性がないのに強烈にインパクトを残す描写だ・・・

確かめた形。確かめられなかった勃起。ああ、センチメンタル。

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第16話。合コンで知り合った女の子とのやれたかも。ドエモい。これが隠れ家レストラン・・・。実質これ、主人公と先輩とのBLでもあるでしょ。恵比寿BLですこれは。そしてそこでのデートの成功っぷりよ。なんせこんな甘い瞳で見つめてくるのである。こんなの、やれるでしょ。と思いきややれないのがこの作品の常。

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「好き」と言ってから行為に及ぼうとするのがせめてもの誠実さと考えて男たちは2人きりの夜に告白するんだけれど、この作品よむとだいたい撃沈してるんだよな。怖。 恋人同士でないのに一緒に寝てしまうような非日常感のなかで、誠実であろうとする態度はかえって夢のような有耶無耶な気持ちをいったん破壊してしまうのかもしれない。うまくいかないんだなぁ・・・ けれど語られる、数年後の物語。やれなかった一夜をふたりともが温めて、そして再開したとき何が語られるか。どうか、あの夜の答えを教えてくれと・・・。

個人的にはこのアフターがあまりにも心に刺さりすぎて、布団でのたうち回りましたよ・・・短いページ数のなかできっちりヒロインの人間性とかも描写できててひたすらに完成度の高い第16話。最高傑作と言っても良いのでは?『じゃりボーイ ごっつええの持っとるやんけ』!!

 

 

 

番外編はホリエモンとのコラボやれたかも。作中でも触れられているけれど、行き場のないリビドーを暴発させた、ホリエモンらしからぬいいやれたかもでしたね。実際のところやれるわけない流れではあるけれど。

 

 

各話感想というかたちで書いてみましたけれど、SNSでタイムラインに流れてきて「おっ」と読み出すのがこの作品らしい所ではある。でも単行本で一気に読むとほんと甘酸っぱい気持ちで心臓が押しつぶされそうになるのでオススメですね。あと装丁もいい。数あるシーンでこの場面をチョイスで表紙に採用するセンス、バツグンじゃん。

 

 

まごついた夜。言えなかった言葉。触れられなかった君。 すべての『やれなかった』は美しい記憶となって、死ぬまで自分の根っこに眠り続けるものなのかもしれない。それでもあの一夜を誰かと共有することができたなら、こんなにもいい漫画が出来てしまうんだな。