「正直どうでもいい?」

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星に届きそうな時代の、ささやかな恋たち『ほしのうえでめぐる』1巻

アオハルsweetの水あさと先生の漫画、見開きをよく見ようとしたら背表紙バキッといった。

ほしのうえでめぐる 1 (BLADE COMICS)ほしのうえでめぐる 1 (BLADE COMICS)
(2012/02/10)
倉橋 ユウス

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   今頃そーゆーこと言うんだ 倉橋ユウス先生の新作「ほしのうえでめぐる」の1巻が発売されました。 全10話とあらかじめ決まった作品で、次の2巻で完結するようです。 舞台は未来。今よりもっと宇宙が近くなった時代での、甘酸っぱい恋模様が描かれます。 倉橋ユウス先生は以前に『恋愛遊星』という単行本を出していますが、これと雰囲気は非常に似ていますね。直接的な繋がりはないかと思いますが、『恋愛遊星』が気に入った人なら高確率で今回の作品も好きになるんじゃないのかなと。

恋愛遊星 (MFコミックス アライブシリーズ)恋愛遊星 (MFコミックス アライブシリーズ)
(2009/12/22)
倉橋 ユウス

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ただ「恋愛遊星」はすでに宇宙人と地球人が密につながりあい、交流を経てからの物語。 対して今回の「ほしのうえでめぐる」は、地球人がまだ宇宙を目指している段階です。 似た設定ではありますが、メインとなる男女の境遇や物語のスケール感など違う点も結構あったりします。 他にも「恋愛遊星」が星や人種の違いといった部分に焦点をあてていましたが、今回は「夢を追う人々」が主人公となっています。恋愛以外の面でも心揺さぶられる物語になっていますね!


●宇宙へと高く伸びる『宇宙エレベーター』。 人類と宇宙の距離をぎゅっと縮めることが期待されるも、まだ建設中です。 この宇宙エレベーターを中心に、宇宙へのロマンに突き動かされる人々を描く作品。 でもただただ憧れを胸に頑張り続けるはできない。でも火を消さずに戦っていく。 夢にかける情熱を描いた第1話第5話は、かなり印象的で好きなお話でした。 さんざん子供の心を煽っておいて、でも大人になっても現実的には出来ないままで。 描いた夢を現実に叶えることはまだ出来ないことが、心をどんどん弱らせる。 「宇宙」に至るという大きな夢は、そう安々と実現することはできない。 しかしエレベーターの企画が生まれた第5話での回想を読むと、さらに作品全体への思いも高ぶるってもんです!厚く夢を語る姿はかっこいい。 1巻の時点では、エレベーター建設に登場人物たちはまだ大きな達成感を得てはいません。2巻に期待といったところ。 ●各エピソードも面白いのですが、本作の最大の魅力は各エピソードの絡まり。 1巻は前半5つのエピソードを収録。 だいたい1話ごとにメインキャラクターを入れ替えていくオムニバス形式なのですが、各エピソードを飛び越えてキャラ同時がつながっていくのです。 そのため読み進めれば前に出てきたキャラの謎が意外な形で理解できたり、そんな連作だからこその仕掛けが施されているのです。 この1巻の中でも、1度読み終えてから再度読みなおすと新たな発見がありました。 ただしまだ解決されていない謎も数多く、2巻でどのように収束するのかとても楽しみ。 もちろん独立したエピソードも面白い。個人的に第3話には特に胸打たれました。 グロテスクな外形の介護ロボットと、目が見えない女の子の物語。 ひたむきな優しさとどうしようもない現実がぶつかりあい、非常に切ないお話です。ラストの寂寥感には思わずほろりと・・・。進んだ科学は人の心を豊かにするかも知れませんが、どんなに便利になった世でもお別れの寂しさからは逃れることは出来ないのかもしれません。 ●そんな風に一筋縄ではないいかない、リアルな未来を描く作品なのですが、人々はこんな時代にも、やっぱりを恋に落ち続けている。甘酸っぱい恋愛描写も魅力的な作品なのです! オビにある「星に手が届く時代に、君の心にたどり着けない。」とはじつにロマンチックでキュンとくるフレーズですね・・・! ほしのうえでめぐる 主役となるのは10代20代の男女。ついニヤニヤしてしまうエピソードが盛りだくさんです。 SF漫画ですが恋愛漫画としての側面も強く、読みやすさがあると思います。 第1話はビターな要素も色濃いものでしたが、甘い恋がキャラクターにとっても読者にとってもの一時の救いとして描かれていたり、第2話なんかはストレートなラブコメやってたり。 ラブコメ好きとしては当然そちらの盛り上がりにも期待してしまいますね! そういえば第1話のラストのやり取りは面白い。 ミサンガが丈夫であることを伝えて、「今頃そーゆーこと言うんだ」と微笑むヒロイン。彼女が何をミサンガに願ったかですよねえ。エレベーターの完成なのか。それとも2人の未来か。


まとめ的なことを書きますか。 連作形式・SF・ラブコメ、それぞれの面白さもありながらも、1つ1つが組み合わさってさらに面白くなっていると感じる作品でした。特に連作形式であるということがこの作品の最大の特徴。 1つ1つのエピソードが、核心にむけてだんだんと練り上げられていく感じ。パズルのピースが少しずつハマっていく。でもピース1つ1つだってとてもキラキラしている。ただ、やはりこの作品にちゃんとした評価を下せるのは、パズルのピースが全部ハマってどんなものが完成するかによるかなぁと。 全2巻構成を前提として組み立てられた作品ですしね。 もちろん1巻の時点で面白みがないなんてことは無いですが、待てる人は2巻が出てから2冊を一気読みするのもアリな選択肢でしょう。 細かな部分に伏線らしきものが張られた、計算された漫画だと思うので、きっと一気に読んだらさらに気持ちいいだろうなあ。まだ結末を読めてないので予想ですけどw いろいろ書きましたがともかく、宇宙を目指すSFなスケール感と、今も昔も変わらぬ甘酸っぱい恋を堪能できる、いい作品だと思います。 現実感のないくらい未来の話でもなく、日常風景は現代と変わってない部分も多い。かと言って説得力を欠いたSF設定でもない。うまくできた世界観が広がっていると思います。 「恋愛遊星」といい、倉橋先生はよっぽどこのモチーフが好きなんでしょうね。 2巻が待ち遠しいですね。どんな結末を迎えるのが、今から楽しみです。 星の上で巡る、きっとこれからも変わらず紡がれていく、夢と恋のお話。 『ほしのうえでめぐる』1巻 ・・・・・・・・・・★★★☆ 連作ならでは面白さが際立つ作品。ロマンを感じますねえ。


<追記> ●「2050年宇宙の旅」はエレベーターでY-OMIURI ONLINE(読売新聞) わお。ホントに夢のある。