「正直どうでもいい?」

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このモヤモヤも、空を飛んで吹き飛ばそう。『思春期飛行』

思春期飛行 (KC KISS)思春期飛行 (KC KISS)
(2012/01/13)
江本 晴

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   自分の足で 行きたい場所へ 江本晴先生の「思春期飛行」。1巻完結の、オムニバス作品です。 思春期とか学生服とか大好きな自分はタイトルに釣られるのです。 「思春期飛行」というタイトルはなにかの比喩とかでも何でもありません。思春期になるとみんな短い期間だけ、本当に飛ぶことができる世界を描いた作品。 それをストレートに表現したこの表紙、とても好きです。雰囲気いいですねえ。


思春期になると飛べるようになる。本作はそんな「飛行」を、思春期がゆえに様々なことに頭を悩ませる女の子や男の子たちに絡めて描く作品。 どれもが思春期の男の子・女の子をメインにした作品で、まさに青春といった内容です。 今回は特にお気に入りな作品3作について、個別に感想を。 ●転校生と飛行機雲 中途半端な時期に転入してきたのと、引っ込み思案な性格のせいでいまだクラスに馴染めない主人公・サキ。屋上でひっそりと過ごしていたら、同じ屋上の住人である少年・峠と知り合う。 おっかなびっくりでも、心の距離は少しずつ近づいていくのですが、まだ飛べないし相変わらずクラスの友達も出来ないサキ。果たして彼女はちゃんと前にすすめるのか。 思春期 この扉絵、好きだなあ。すごく青春の匂いがする。 絵のタッチも柔らかく、伸びやかな空気を作り出してくれていていい感じ。 「飛行」は誰もが遅かれ早くは訪れる変化。 しかし日々ちょっとずつ大人へとなっていく「身体の変化」とは違って、見た目ではっきりと見えてしまう「飛行」は、育ち盛りな思春期の子供たちの胸に独特の感情を呼ぶみたい。 心も繊細になっちゃうこの年頃には、他人と自分を比べてはコンプレックスを抱きやすく、「まだ自分は飛べない・・・」というのも、この設定ならではの少年少女の悩みとして立ちはだかる。 そしてモチロン、空を飛ぶというのは思春期の限られた時期にしか叶えられない。 みんな思い思いに空を飛びながら楽しそうに青春を謳歌してる様子が、たまらなく眩しい。 この短編では他人とのコミュニケーションが上手くとれず、いまだに飛ぶこともできないと塞ぎこんでしまっている女の子が主人公。コンプレックスになっていた「飛行」がキーワードとなり、彼女が自分のカラを破っていくきっかけになっていくのは、とても気持ちいい展開でしたねー! 空を飛んでいるという様子はそれだけで高揚感も爽やかさもあって、物語そのものとよく咬み合っているんですよね。本当だったら王道すぎるストーリーでも、思春期の飛行というファンタジー臭さが組み合わさって新鮮味を出してくれる。それはこの単行本のどの話にも言えること。 そしてこの短編でたまらないのがラストシーンですよ。思わず悶絶! 「だめ?」と聞く男の子に、返事をしないまま手を取る主人公!ああ、ひたすら鮮やか! 空を飛ぶ少年少女、そのモチーフの清々しさが物語全体に生きていて特にお気に入りのエピソードですね。 ●坊主頭と子どもの霊 男の子の「ダメな思春期らしさ」がにじみ出てて好きな短編! 主人公の徳楽くんが友人や女の子にもついつい見栄をはってしまうのにニヤニヤw 野球部の少年と、ずっと病院にいる身体の弱い女の子のお話で、これも空を飛ぶということで話が広がっていきます。 単行本で唯一、男の子が主人公になっている作品。それだけに、主人公の男の子のくすぶった感じは他の短編にはない魅力を放っていると思います。 「小さい もう なんてか小さすぎる 手を掴まれんたんだぞ それを俺は」 なんて自己嫌悪に陥るシーンなんか、読んでてこっちもそわそわしてくるというか。 思春期2 そして1番印象的なのがこの場面。 空を飛んだ少女を見上げて、「ああ なんか なんだコレ」としか言葉がでない主人公。 器用な物言いなんてできない、ただ呆然とため息と同時に漏らしたような感嘆。 まさにこの年頃の不器用な男の子って感じでたまりませんね! ストーリーも感動するというよりは、力強くなった絆を見てふっと微笑めれるような感じ。やや中性的なヒロインですが、主人公が心惹かれたのも分かる気がするなあ。不思議な引力がある。 ●りりと志央 こちらは女の子と女の子の友情を描いた作品。幼馴染の2人が主人公。 子供の頃の思い出を大切にする・・・というかやや固執しすぎてる部分もあるりりと、どこか冷めた物言いが特徴的な志央。仲のいい2人でしたが、タイムカプセルをめぐりちょっとケンカ状態に。 現実的なのは志央の方ですが、でもりりにはこの純粋さを守りぬいて欲しいというか、大切にされて欲しいというか、読んでいてなかなかモヤモヤしたものですが、しかしそれが面白い。 しかしラストへ向かう展開の心地よさと、最後の幸せな暖かさに思わず笑顔。 中学生の女の子って、きっと本当に子供と大人が入り交じっているんだろうなあ。この2人は端的にこの年頃の女の子を示している気がします。志央のキャラクターが個人的に好み。 そして「ぐえー」って言ってるウサギがなにげにお気に入りなのです。


そんな感じの1冊。ほか3つの短編も、みんな読後感のスッキリしたものばかりです。 思春期の人は飛べるようになる・・・という設定が存分に生きており、飛ぶことが子供たちを悩ませたり、その悩みを吹き飛ばしたり、いろんな風に作用するのが面白い。 そして上にも書きましたが、「人間が空を飛ぶ」というシンプルかつ魅力的なモチーフは、甘酸っぱい青春物語にさらなる爽やかなをプラスしてくれているのです。 もっとエッジの効いた作品も読んでみたくなりましたが、この優しくあたたかな作風はいいものです。読んでいていい気分にさせてくれるものばかり。 青空の似あう、甘酸っぱい思春期の面白さが詰まった作品と言えます。 『思春期飛行』 ・・・・・・・・・・★★★☆ 空飛ぶ少年少女のキラめく青春模様。爽やかで読みやすいです。