「正直どうでもいい?」

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心ざわめく空の色。レッツ・ガガスバンダス。『空が灰色だから』1巻

空が灰色だから 1 (少年チャンピオン・コミックス)空が灰色だから 1 (少年チャンピオン・コミックス)
(2012/03/08)
阿部 共実

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   嫌い嫌い 大嫌い大嫌い大嫌い空が灰色だから」待望の1巻、ついに発売されました。 売り場でもギラギラ目立つ赤が特徴的な表紙ですねえ。これは警戒色。 もともとは3話のみの集中連載でしたが、現在は毎週連載となっている作品。1話ごとに登場人物を入れ替えて進行していくオムニバスシリーズです。 1話ごとにキャラも変われば雰囲気もガラリと変わっていくので1口には言えませんが、「問題作」と言うにふさわしい、エッジのきいた作品だと思います。 10代女子を中心に、うまくいかない日常を描くショートコミック。


この1巻には全部で12の短編を収録。 それぞれの話も楽しいのですが、1冊通しての構成がとてもよく感じられました。 内容的に、これを一気読みするのはなかなか疲れたりもしましたが・・・。 まず1話はこの作品らしい、不器用な女性を主人公にしたコメディ。 甘いお話ではありませんが十分に明るく、主人公のキャラもとてもかわいらしい。 ところが第2話で豹変するんですよ。 友人のグチを言う主人公が描かれ、やや気分は悪くなるもここからどう転ぶかなと楽観的な期待をしながら読んでいくわけですが、明らかに想像していた内容から外れていく。 だんだんと壊れていく主人公。それは読者にとっての「安心」を、ちょっと不幸だけどちゃんとハッピーエンドになっていくんだろうなー等の想像をも破壊する。 空2 だっていちおう少年漫画で、こんなシビアなもの見せつけられるとは思わないんだもの・・・。 支離滅裂な言葉で吐き出される壮絶な嫌悪や、彼女の寂しさ、負ってしまった心の傷に、グッサグサ胸を突き刺さされるのです。 じっくり読み過ぎると自分の頭まで痛くなりそうな、残酷なカオス。 この「お前は私を大嫌いなお前が大嫌いな私が大嫌い」は結構ネットでも騒がれていたように思いますが、たしかにこの作品が持つ破壊力は凄まじかったです。 そしてこの2話以降が本番とも言えるのでは。 「最後に何が待っているかわからない」っていう意識を植えつけられた自分は、以降の短編でもめちゃくちゃドキドキしてしまうようになりました。 必ずしもハッピーエンドが待っているわけではなく、むしろ強烈に切ないものが待っていることがわかると、最初はどれだけ明るくコメディチックに始まった短編だって、身構えちゃうんですね。例えがちょっとおかしいですが、肝試しに似た感覚。 そしてそれがこの作品の1番面白いポイントなのかなと思います。 衝撃の2話の直後にやってくる第3話。個人的にこれが1番好き。なぜなら、1番ドキドキさせられたから。そしてその結末も大好きです。 母子家庭を描いたもので、何事にも一生懸命な母親が主人公です。 そら1 どうか彼女の誠意が報われますようにと願いながら読む。 最後のページをめくるときの緊張と言ったら・・・もう。娘さんのどんな表情が次ページで待ち受けているのか、めくることにすらおっかなビックリですよ。 でもこの娘さんの晴れやかな表情は、果たして本当なのかなとか、母親を安心させるためのウソのものなんじゃないかなとか、ラストシーンを読んだ後にももやもやの残滓があったり。 でも、手作りのシロツメクサの冠はに込められた思いは、きっと信じられるもの、かなあ。 単純に展開にビックリさせるだけでなく、このエンディングは本当にこういう解釈でいいのかな、というように額縁通り受けとることもちょっと怖くて、つい考えてしまう奥深さがあります。 「空が灰色だから手をつなごう」というタイトルも、すごくピタッと来ます。


なんといっても上の短期集中連載の全3話の構成が素晴らしい。 そして以降の短編でもまだまだ楽しませてくれるんですよね。 エピソードもキャラクターも、とにかく個性があってそれぞれが濃い! 第6話の記憶すり替えの話、第7話の幽霊の話、第9話の男らしい女の子の話が特にツボ。 第12話「ガガスバンダス」もヤバい。話が意味不明な上にループしてて独特の世界。 そしてやられたなーと思ったのは第10話。 単行本に後半にさしかかってやってくるこのお話は、2段構えのオチ仕様。 これまで読んできた読者の予想をあえて裏切ってくれて笑ってしまいましたw 濃ゆい話が多い単行本ですが、第11話は「生きるということ」は印象に残りまくり。 人の食事姿に異常に興奮するという、かなりアブない少年に絡まれた女の子の話。 空3 ・「食ってさ欲だよ 欲だよ欲 本来とってもプライベートなものであるべきなんだ。なのに学校が男女一緒に交わらせて昼食させるなんておかしいと思うんだ!!」 ・「でも恥じらいをちゃんと持っている輪田さんの咀嚼物だからこそ情熱を感じるんだ」 言葉の意味はよく分からんがとにかくすごい勢いだ。なんか「なるほど」って納得しかけてしまいそうである。 しかしこのエンディングも絶妙に残念だったりで、かなりお気に入りな一話。


そんな「空が灰色だから」の1巻。単行本で読むと、かなりヘビーかも知れません。 こんなポップな絵柄で、辛辣なくらいの展開の数々繰り出されていくのも面白い。 しかし、衝撃の大きさから悲劇的なエピソードが目立ちがちですが、全体としてみればコメディだったり心温まるものだったりとバランスはとれています。 バランスがとれているからこそ、次に何が来るんだろうとドキドキするわけですが! キャラクターが傷つく瞬間を、隠さずむしろ積極的に描く作品。 先にも書きましたが、1巻としてはこの構成は素晴らしいですねえ。 最初に度肝を抜く展開と、以降は様々な積み重ねで読者を牽制してくる感じ。 「こんなのはどう?」・・・といろんな料理が次々めのまえに運ばれてくるような。で、大体が最初の口当たりがいい。でも最終的にどんな味わいになるかは予想がつかない。 ある意味、非常にエンターティメント性に富んだ作品なんですよね。 甘みと一緒に、切なさとか痛みとか生々しい毒がグチャグチャ渦巻いてもいて。 1度は読んでみて欲しい作品ですが、広くオススメはしづらいですね。 でも個人的な感想としては、「凄く楽しませてくれる作品」です。 『空が灰色だから』1巻 ・・・・・・・・・★★★★☆ 読んだらみんなでガガスバンダスしなきゃ。え、何それって。読んだら分かりますよ多分。