「正直どうでもいい?」

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傷ついたらハマる、思春期の光と闇。『空が灰色だから』2巻

最近更新ペースがひどいですね・・・試験期間あけたらもっと更新していきたい。

空が灰色だから 2 (少年チャンピオン・コミックス)空が灰色だから 2 (少年チャンピオン・コミックス)
(2012/07/06)
阿部 共実

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   星なんてひとつもなくて 心がざわめく思春期ショート「空が灰色だから」、第二巻が発売しています。 心の奥深いところに突き刺さったり傷を残したりゾクゾクさせたり・・・とにもかくにも、確かに「ざわめく」。やさしいお話はある。けれど隠そうともしない強烈な毒や絶望もグチャグチャに渦を巻いている。 読む人に何かを残してやろうって気マンマンの漫画なんですよね。消せない傷でもなんでも。 今回はどんな方向に向かう話なのか、最後まで予想ができない面白さ。 表紙カラーは黄色。ポップなデザインですが中身を知ってるとこれが斑の警戒色にしか・・・。 目次ページの斑人間イラストから生理的にムリって人いるんじゃないか。


1話基本12ページのオムニバスショート、ということですが、コメディも純愛も虚無も絶望もホラーも不条理も一緒くたです。ジャンル説明がぜんっぜんできない漫画ですね。 「うまくいかない日常を描くオムニバス・ショート」とありますが、ううん、女の子達の賑やかでハッピーなコメディ期待してると膝から崩れ落ちて頭抱える。 「うまくいかない」というのは間違いないですね。その上で毒が強すぎる。 ということで(?)この2巻もいろんな話が収められており、退屈しません。 一気に読んでるといろんな情報が頭をぐーるぐーるして疲れてしまいますが、それでも1冊の単行本としての満足度は非常に高い。ハマる人はとことんハマるんじゃないかな。 それでは個人的に気に入った短編について、それぞれさくっと感想でも。 ●17話 こわいものみたさ キャーキャー騒ぎたくて苦手といいつつホラー映画とかノリノリで見ちゃう系女子。 と言えばいいのかなんなのか。なんにせよ、終盤の見開きにテンションがおかしくなる。 主人公の女の子も、そして読み手の好奇心をかきたてるエンディングで、なんだかそわそわする。それがこの作品の狙いなんでしょうねえ。「あ、とれちゃった」って・・・なに!なに! 「こわいものみたさ」のタイトル通り、それを読者にも感染させようとするかのような。 いかにも怪しいリアルな風景描写も雰囲気もいい。なにか起こりそうな不安が掻き立てられる。 ●18話 信じていた きたーハートブレイクもの。ブレイクするのは読者の。1巻収録の第6話とも似た構成をしていますが、あれとはまた違ったベクトルの痛さもあるような。 勘違いの押し付けをしていたのが6話なら、すでに取り戻せない失敗を犯してしまっているのがこの18話。途中までは素直に青春ものとして読んでいたのに、クルッと視界が反転しブラックに突き落とすこのテンポのよさはお見事。この作品、最後まで転ぶかわからない短編ばかりなのも大好きです。 照れ隠しの罵倒はおなじみのツンデレらしい流れであるけれど、それで相手が致命的に傷つけられる場合もある。こんな不器用な人間関係が、いつも好意的に受け止められるはずもないんだ。ツンデレなんて漫画だからこそ夢を見れるツンデレのシチュエーションだけど、漫画にそのお約束を真っ向否定されてしまうという、内容の痛々しさと同時に「してやられた」と気持ちよくなってしまう一作。いたきもひい。 でオチもひどい。あのモブの女の子。いい気持ちにはさせられないけど、この作品らしい意地悪さだよなぁと思います。そしてなによりラスト1ページは、うっかり泣けてきてしまった。 空が22 ●21話 こんなにたくさんの話したいことがある いろんなタイプ短編を取り揃えた第2巻でも随一の清々しさを持ったエピソード。 いたって普通に始まる平和な作品ですらビクビクしながら読みすすめてしまうこの作品だからこそ、俺は本を思わず放り出す勢いで喜びました。チャンピオン本誌で読んだときの話。 最後の最後まで貫かれ、そして花を咲かせた胸いっぱいのぬくもり。 空23 いい笑顔!キラキラと眩しい友情もので、素晴らしい笑顔が拝める作品。 たまにこういうエピソードも仕込んでくるから侮れないんですよ。毒ばかりじゃない、やさしさが溢れ出すような感動も味あわせてくれる。 言葉のひとつひとつの美しさもときめきました。きっと親友になれた瞬間だ。 この作品には「他者とのコミュニケーションがうまくできない」ことで悩む人々が多く登場します。まぁそんなのは思春期の人間なら、というか年代問わず多くの人が抱える悩みなのかもしれないけれど、何事も不器用な思春期が「空が灰色だから」の土台的な部分。 そして、うまくいかないコミュニケーションが時にちょっとした幸せを運んでくれたり、目も当てられない辛い結末を見せつけてくる。 しかしこの作品は、コミュニケーションがうまくとれないと悩む少女が、その全てを受け入れてもらえる形で終わる。地味ながらも「空が灰色だから」中ではトップクラスにハッピーエンド! 切ない話も大好きだし、ブラックな作品にもドキドキさせられるけど、それらの積み重ねがこういう正のエネルギーを放つ作品をより魅力的にしていますね(1巻の第2話→3話の流れでもこれは思いました)。また、逆もしかりなんですが。正の作品があるから、負が映える。 その凄まじい振り幅がまたドキドキさせてくれます。 ●23話 わたしたち この女の子はかわいいがウザいなぁw いわゆるラブコメらしいラブコメなんだけれど、コメディとしてのキレがよかった1話。 もともと台詞回しなどのセンスの面白さは感じていましたが。主人公の男の子の冷静なツッコミがとてもいい。それでちゃんとニヤニヤできる!この2人は好きですねえ、再登場しないかな。 ●24話 世界の中心 うわぁ、これはまた強烈な。 主人公による一人称視点で展開していく話なのですが、それ故にどんどん病んでいく。 最初はシュールだなと思いながら読んでいたものが、どんどんと悪化していき鳥肌が立ちそうな不気味さになっていきます。でも絵としてはすごく面白いんだよなあこの話。 空が21 なんだこれ・・・怖すぎる。 ラストまで来ると本当に意味がわからなくなってきます。こっちの頭がイカれそう。 テーマも面白いのですが、これをこんなおぞましい遊び心で12ページにまとめあげていることもすごいなと。ある意味一発ネタなんですけど、これは間違いなく記憶に残る一話。


いかにもエッジのきいた話ばかりチョイスしてしまって自分でもうひょうって感じですね! そんなこんなの「空が灰色だから」2巻でした。 1巻と比べてもかなり挑戦的な内容になっていました。挑戦的というか、遠慮なしのむき出しの世界が広がっているというか。キャラクターも個性が強く、楽しませてくれます。 上での5つの話以外も印象に残っていますねえ。それぞれが濃厚で素晴らしい。 16話「金魚」なんかもすごく好き。感想書きづらかったのでやめてしまいましたが、静かにおだやかにとうとうと、乾いた空気が流れていくお話でした。 次にどんなものが飛び出してくるのかわからないのが魅力です。一話完結のショート漫画でこんなに続きが楽しみになる作品というのも珍しい気がするな。 クセのつよい作品だと思いますが、とりあえず1度読んでみて心揺さぶられてみて欲しいですね。 かわいい絵柄でずいぶんエグい漫画。そこが素敵。傷ついたらハマる。 『空が灰色だから』2巻 ・・・・・・・・・★★★★☆ 1巻を上回る秀作ぞろいで充実してます。隠そうともしない悪意と心地よいぬくもりの波状攻撃。