「正直どうでもいい?」

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最高の大団円。人間が求め、手にした答えと未来とは。『鋼の錬金術師』27巻

どんだけ書いてもなんか物足りない。

鋼の錬金術師 27 (ガンガンコミックス)鋼の錬金術師 27 (ガンガンコミックス)
(2010/11/22)
荒川 弘

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   おかえりなさい 鋼の錬金術師、完結。 ついに終わってしまいました。感慨深いです。 思えば最初のアニメ第1話を見て原作を買いに走ったので、もう7年以上の付き合いですか。 まぁ、ここで俺の思い出話書き散らしてもしょうがないのですが・・・。 作品としては9年もの長期連載。荒川弘先生本当にお疲れ様でした。 いよいよ最終巻の更新です。長く読んできた作品だけに、本当に寂しいなぁ。 今回結構長くなっております。分割した方が良かったかも。暇な時にどうぞ。


圧倒的な力を見せつける最後のホムンクルス『お父様』。 成す術もなく傷つき、倒れていく仲間たち・・・突破口はどこにあるのか。存在するのか。 けれど絶望はしない。ひたすらに未来を望み、戦い続ける人間たち。 そして一方、既に動けない身体となっていたアルフォンスは決意を固める。 それは予想外で最悪で、これ以上ない兄への信頼の成せる最上の決意。 衝撃と怒りがエドを突き動かす! 20101126223844.jpg (クリック拡大) 第1話を彷彿させるこの台詞・・・! そう、「オレ達」なんですよ。あの頃は違うんだ。覚悟も、背負ってるものも。 ラスボスを真正面から「ド三流」とコキおろしたエド!ラストバトルは如何に・・・! さて、ストーリー紹介はここまで。 やはり最終巻ですので、自分としても触れたいところはたくさんあるのですが そのどれもこれもが致命的にネタバレなので、どこまで書くべきか悩みどころ。 とりあえず、これより下は各キャラクターの結末にも関わる話ばかりなので 未読の方は見ないようにしてください。極力。  

 


気になったシーンや好きなシーンとかをつらつら書いていくとします。

・復活したエドワードの右腕

鋼の錬金術師エドワード・エルリック。 彼は二つ名が表す通り右手と左足が機械鎧であり、兄弟で続けてきた旅の目的は、自分とアルの身体を取り戻すことだった。賢者の石を求めたのもそのためだった。 しかし彼は今回、思いもよらぬ方法で右腕を取り戻してしまった。 破壊された右腕のオートメイル――絶体絶命の中、アルフォンスの決意が兄を救った。 かつてエドは右腕でアルの魂を練成したが、今度逆に、アルが自分の魂でエドの右腕を練成。 20101126223847.jpg 扉の向こうで、ついに1つになる肉体と魂。 計り知れない絆で結ばれている兄弟なんだと、最後の最後にまた再確認させられたなぁ。 揺るぎなくアルは信じ切っているんだ、エドがちゃんと迎えに来てくれることを。 そしてちゃんとそれに応えて見せるエド。なんという兄貴らしい兄貴。超兄貴。違う。 肉体と魂、1人の人間を練成するための代償をどうするか・・・ その答えにもまた、最高に胸を熱くさせられた。 身体を取り戻すための錬金術師の旅の果てにあった答えがこれだとは。感慨深いなぁ。 錬金術が無くてもみんながいるさ」と笑って言える強さを、エドは既に得ていたんだな。 真理君も満面の笑みでエドの答えを「正解だ」と讃える。 「正解」とは、つまりそういうだった。皮肉が利いてるが、しかし納得できる。 ちなみにラストバトルの決着をつけた最後の一撃は錬金術でもなんでもなく、生身の拳。 最終話第108話の冒頭も、神の力を宿したホムンクルスを徹底的に拳でボコるエド。 あくまでも素手で戦うこと――これはお父様を心理的にもダメージを与えるための手段だったろうし、荒川先生の意図も読みとれる。エドが扉の前で出した結論を踏まえてから読み直すと尚更。 超能力バトル作品(ハガレンをこうカテゴライズすると違和感あるけど)が向かう結末としてはよくありそうなものではあるけれど、9年の年月をかけて描かれた重厚な物語がたどり着いたこの答えには、自分は非常に満足感を覚えた。スコーンと綺麗に、収まるべくして収まってくれた感じがたまらないです。 132P、アルと彼を迎えにきたエドが手を握り合うカットもさらりと感動的。 生身の右手・肉体のすべてを取り戻し、互いの体温を感じられる久しぶりの握手! 右腕に関連すると、面白かったのが終盤の屋根作業中のエドガツンとトンカチで右手の指を叩いてしまうシーンです。 これまで、といってもあのシーンの時点で右腕を取り戻してから結構な時が過ぎてはいるけれど、オートメイルだからとちょっと雑な指の使い方とか居ていたんじゃないかな。だから細かな指の扱いとかがちょっと苦手? 右手の痛みに涙をにじませるエド・・・・・・ニヤニヤしてしまうなぁw狙っていそうだw その痛みもまた、良いものなんだ。「手間かかるのもいいもんだよな」ってさ。

・真理の扉

前のとちょっと関連して真理の扉の話。 最初にこのシーンを見たとき、何か違和感があった。ちょっとしてから気付いた。 20101126223824.jpg 扉の向こうが、白く輝いている。 これまで真理の扉の向こうは、いつだって黒い混沌が広がっていた。 ところがどうだ、この光は。 祝福の表現として光ってのは王道中の王道なんだけど、それが扉の向こうとして描くか。 そういえば表紙でも扉の向こうがそうやって描かれているし・・・! 理屈を考えずとも、「真理の扉」を開けた先が光り輝いているというのは実に印象的。 あまりにも最終巻らしい演出なので、これも狙ってたんだろうなぁ。上手い。 真理が言う「正解」は、こんなにも晴れやかな結末だったのか。笑ってしまう。

・強欲

ホムンクルスの一員、強欲のグリード。 彼は間違いなく、この作品における超重要キャラクターだった。 ホムンクルスと人間の関係を考えるには、彼の存在は非常に重要。 ホムンクルスでありながら、彼はあくまで自分の意思で、人間側として戦った。 この最後の戦場で、攻撃の転機をもたらしていたのは間違いなくグリード。 決定打となったエドの拳も、グリードのサポートが無ければ届かなかった。 人間より優れているであろうホムンクルスの王が人間に倒されるという皮肉。 しかしその裏には、人間の味方をするホムンクルスに敗れたという皮肉もあるのかも。 全ての貪欲に欲し続けたグリード。 金、地位、女、世界――――全てを手にすることこそが彼の生きる意味。 そんな彼が「なんも要らねぇや」と言ってしまったんだよなぁ最期で。 彼の心の飢えは、ついに満たされてしまったんだ。 エドとアル、共に戦った軍人・武人たち。心を1つに敵に立ち向かった。 本当に欲しかったのは、何だったのだろう。 互いに利用し合う関係だったリンを「魂の友」と呼んで彼は消えるが、その時彼はさぞ満足気な表情を見せていたに違いない。寂しげな別れの言葉には、たしかな充実感もあった。 ラースと同じく(ラストもか?)、彼は良い死を迎えられたホムンクルスだと思う。 長らく描かれてきたグリードの葛藤・・・その結末は、切なくもなんとも素敵なものだった。

・スカーの名前

「また生かされた」とむくれっつらなスカーさん。 何度も死にかけその度復活してきたこの男の人生はまだまだ続くのである! ここで、まぁ読んでる人みんなニヤリとしたであろうこの台詞。 20101127235050.jpg 「名は無くていい、好きに呼べ」 これはかなり痺れた。深い言葉だ。 スカーというのは彼の顔にある大きな傷痕(=SCAR)から取った異名。 そう呼ばれることになんら抵抗を見せてこなかった彼は、自分の境遇に合ったものとして自虐的に受け入れていたのではないかと思う。一度死んだ彼は、癒えないまま傷痕そのもののような存在だった。 傷に苦しまされながらさ迷うだけの亡霊のような存在。もはや人間では無い。 そんな彼が、スカーはもう死んだというのだ。 今ここにいる自分は、もうスカー(傷痕)ではない。だから、好きに呼べと。 つまりこれは、彼が復讐から解放されたことを意味している。 破壊のためじゃなく、救うために生きる次なる人生。新しい自分。 彼にはまだまだ、やるべきことがある。 初期にはエドたちの敵として描かれたスカーですが、終盤の彼は間違いなく物語の主人公の1人でしたね。一度彼視点から物語を読み直してみるのも面白いかもしれません。

ホーエンハイムの生き様

エドとアルと実の父、その正体は賢者の石そのものであるというホーエンハイム。 人間、父親、1人の男・・・色々と魅力的な一面を見せてくれた人物でした。 物語を魅力的に彩ってくれた素敵なオヤジでしたが・・・最終巻にてついに死亡。 20101127235035.jpg 息子たちの強い絆。彼らを祝福するたくさんの仲間たち。 彼は愛する息子たちの幸せな未来を確信し、彼は息子たちのもとを去る。 彼が死に場所として選んだのは・・・・・・トリシャの墓の前 この選択にも震えるし、この時の彼の死に顔も本当に味わい深いもので・・・! 「でもやっぱり死にたくねぇなぁと思っちゃうな」と零してしまうのも、彼の自然体な魅力が溢れる最期だったなぁと。 ちょっと弱音を吐いても、彼はちゃんと分かってるんだ。自分の役目と、引き際を。 そして単行本書き下ろしもまたホーエンハイムトリシャのやり取りが描かれています。 鋼の錬金術師という作品を最後に締めくくったのは彼らだったというのは 考えを巡らせばなかなか意味深なものであり、爽やかな感動を味わえますね。 賢者の石となり永遠を手に入れてからの気の遠くなるような時間の中で 彼がどれだけトリシャを強く想い、愛していたか。 この書き下ろし漫画には、ホーエンハイムの全てが詰まっているように思えます。 彼の生き様は、本当に魅力的なものでした。

・身長

エドは当初低身長キャラ。 初期は豆だのチビだの言われてブチ切れるのが持ちネタでした。 しかし物語が進むにつれすくすくにょきにょきと彼は成長をしていきました。 この最終巻ではさらに未来へ時が移り、スッキリ高身長をゲットしたエドの姿が! もう豆ともチビとも呼ばせない!活き活きした彼の表情からはそんなことも読みとれますね(え 主人公エドワード・エルリックの身長は、分かりやすく彼の成長を示すバロメーターとして働いていたと思います。 1人のあどけない少年が、何度も出会いと別れを繰り返し、時に傷つきながら歩んできた時間。 その積み重ねが、眼に見える形でも彼を成長させているのだなぁと。 そしてこの身長は、物語終盤に非常に魅力的な演出にも用いられました。 ・・・ということを既に「酔いどれ眼鏡の漫画居酒屋」の葵さんがエントリを書いておられます。 →「鋼の錬金術師」最終回、“成長を刻んだ身長”の魅せ方 ニヤニヤするなぁー! 使いどころが上手いんですよ本当。「成長」を見せる瞬間を、計りきってる。 エドが真正面から感謝の言葉を口にし、ウィンリィを抱きしめるこのシーン! 何から何まで大きくなっちゃったなぁ・・・色んな意味でニヤニヤせざるを得ない! 「身長」は丁寧に描かれ続けた、この作品の伏線の1つでした。

・兄弟の未来

身体を取り戻し元気になったアルフォンス。錬金術を失ってしまったエドワード。 しかし彼らはいつだって前に進み続ける。 再び旅に出ることを決意する2人。東西分かれて世界うぃ見て周る、壮大な旅。 彼らが考案したあるものを証明することが目的だ。 10が10に“なる”のではなく、10に11に“して”次の人に渡す。 等価交換を否定し超える、全く新しいこの法則を。 それぞれが次の人のためを思いほんの少しだけ上乗せすることで、「10」はどんどん大きくなっていく。人が繋がるほどに広大に。 錬金術としてだけじゃなく、人間関係にも応用することができるこの法則。 彼らがこれを編み出したのは、かつての旅の中での数々の出来事があったからだろう。 人間は無力なんかじゃない。世界の理を覆すことだってをだって出来る。 それは仲間がいるからだ。仲間を、友好を、平和を求めよう。 この新しい法則はそれを目指すためのように思える。世界は広く争いも絶えない。 旅で見つけた答えを、証明するために彼らは旅に出る。 彼らが最後までニーナのことを忘れなかったことが、涙が出るほど嬉しい。 20101128034606.jpg ウィンリィの言葉にエドが笑ったのもそういうこと。 人間は簡単に錬金術のルールなんて破ってしまう。世界を変えられる。 だから旅に出よう。約束をして。

・“鋼の錬金術師

国家錬金術師エドワード・エルリックの2つ名。 しかしこの言葉は最後の最後で全く別の、そしてより強い意味を与えられた。  痛みを伴わない教訓には意義がない  人は何かを犠牲なしに何も得ることなど出来ない。  しかしそれを乗り越え自分のものにした時・・・・・・  人は何にも代えがたい鋼の心を手に入れるだろう。 何度も何度も、この言葉をかみしめる。 エドワード・エルリックは、錬金術を失った。 けれどそうだ、彼は今でもこれから先も、鋼の錬金術師で在り続けるのだ。 今、彼は真理を行く。鋼の心で歩んでいく。 こんな風に「鋼」を絡めてくるとは。本当に綺麗にまとめ上げられた作品です。

・まとめ

予想以上に長くなってしまいました。まとめます。 全108話、9年もの長期にわたる連載・・・荒川弘先生、改めてお疲れ様でした。 そして最高の物語を届けてくれて、本当に、ありがとうございました。 愛すべきたくさんのキャラクターたち。重厚で魅力的な世界感・物語。 力強く、まっすぐとした兄弟の旅路。期待を上回るラストの興奮と感動。 忘れ得ない、素晴らしい作品です。もう何も言うことがありません。 感謝が尽きぬ想い。無茶苦茶面白い漫画でした。自分の中では伝説になりそう。 『鋼の錬金術師』27巻 ・・・・・・・・・★★★★★ つい最終巻。最高の大団円。ありがとうございました。ありがとうございました。 ちなみにこの27巻の発売日は11月22日。こんなところにまで笑顔になれる。