「正直どうでもいい?」

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行くあてもなく僕らは放課後をさまよう。『ローファイ・アフタースクール』

ローファイ・アフタースクール―五十嵐藍短編集 (BLADE COMICS)ローファイ・アフタースクール―五十嵐藍短編集 (BLADE COMICS)
(2012/05/10)
五十嵐 藍

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   何もない人は放課後何をしてればいいんだろうね 「ワールドゲイズ クリップス」の感想を書いたのにこちらをスルーしていたことに気づき、いまさらながらに感想。 今年の春に発売された「ローファイ・アフタースクール」という本です。 ブレイドコミックスですが、同人誌やら他社での読み切りを集めた一冊。とても短い作品もあったり、結構実験的なことやっていたり。 表紙のちょっとダウナーな雰囲気が好きそうだったら、中身も問題なく楽しめそう。女の子キャラの飄々とした様子も楽しく、かわいいです。


短篇集なので気に入った作品について、さくっと感想書いていきます。 ●神様ごっこ 高いところに登って町を見下ろして、なんでも知ったふりして神様気分。 ボーイミーツガールのときめきも味わえる佳作です。 舞台は90年代末らしく、ノストラダムスのてきとー大予言、「世界はもうすぐ終わる」に心動かされる男の子と女の子が登場。 でも世界の終焉は絶望ではなく、むしろ楽しみなものとして描かれる。ヒロインは「何が起こるんだろう」とか、遠い目をしながらいうわけです。終わりがもうすぐだからこそ、今楽しまなきゃもったいないよね、なんておかしな前向きさも発揮したり。 しかし主人公は、ただ楽になりたいの一心で滅亡を望む。 静かな世界観に漂うのは、投げやりで不安定な思春期のマイナスなエネルギー。 この作品のキャラクターは無力感に支配されてて、なんだかぐったりしてる。 なんだか憂いが感じられるその雰囲気が結構好き。 ローファイ1 「何もない人は放課後何をしてればいいんだろうね」 印象的なセリフの1つ。 ストーリーのラストを見ても、主人公もヒロインも、世界も、きっとなに1つ変わっていない。出口の見えない物語は、最初読んだとき、なんだこれと思ったのも事実です。 でもこのオチだからこそ、実はけっこうこの作品が好き。 気まぐれに生きて、気まぐれに恋をして。 全部燃やして気持ちの整理をつけても、けっきょく彼女を見つけたら表情を和らげてしまう主人公ですよ。なんだよ、ずいぶん懐いちゃったじゃないか。 キャラクターの心も物語もあやふやだけど、不思議と暖かな感触を心に残してくれる作品でした。 ●ekstasis 5ページの短編。しっかしこれがすごいインパクト! 女の子のながい黒髪に舌を這わす少年。お前は何をしているんだ。 ローファイ2 短編だけに特別なストーリーはありませんが、短いページに込められた変態的な興奮や熱気や・・・とにかく異様にドキドキさせられてしまう短編でした。 最後にヒロインが気づいてるってオチだったけど、逆に気づいていなかったらそれはそれでドキドキするじゃないの・・・とか考えた。「なんか私の髪が匂う」・・・とか。 ●アフタースクールショウ 単行本ラストを飾った、これまたとてもみじかな作品。4ページだけ。 でもこの4ページにすごく心安らぐんだ…。 ローファイ3 「山田おまえさぁ 俺のこと好きなんでしょ」「まーねー」 いきなり出だしの会話がこれ。なんでこんな色気なく話してんだw しかし最後まで、なんて居心地のいい男女だろうとしみじみ。女の子の片思いだけど、男の子が彼女を近づけも遠ざけもしない絶妙のポジショニング。 それって結構ヒドいことだよなぁと思いつつ、2人ともやたら楽しそうなので微笑ましい。淡々と会話のキャッチボールしつつたまに暴走するのもテンポよくて気持ちいい。 暗い作品おおめの作品集のラストにあるからこそ、この軽さがいきるな。


どいつもこいつも覇気がない単行本だよ!!(雑なまとめ じめじめのドロドロ。だらだらしては悩んで、自分がイヤになって、世界を嫌って、全部消してしまいたくなる。いやぁー暗いなぁ。でもこの塞ぎ込んだダークな感情は、確かに身に覚えがある気がする。たしかに思春期の負のエネルギーが渦を巻いている作品。 けれど暗いだけではなくて、結構どれもこれも、他者と接することできちんと感情を動かすもの。後ろ向きでも、暗いばかりでも、冷たい作品ではないんですね。 孤独な作品もありますけど、不思議と空気は澄んできれいだったりして。 キャラクターたちは歪んでいながらも、実はピュアだったりするのが理由でもあるかな。 ストーリーを楽しむタイプの漫画ではないと思います。でもこういう雰囲気の漫画、きっと好きな人は多いんじゃないかなとも思います。自分はそう。 「なんで自分には何もないんだろう…?」なんて不安に怯えるキャラが結構いる。 10代の閉塞感は存在感をはなっていますが、それだけじゃない魅力がある作品たち。暗い顔したってやっぱり彼らは青春してて、伸びやかに生きてる様はそれはそれで心に気持ちのいいものなのです。当の本人は必死に戦っていて、そんなことわからないだろうけれど。 「ワールドゲイズ クリップス」と似た雰囲気なので、合わせて読みたい一冊。 『ローファイ・アフタースクール』 ・・・・・・・・・★★★☆ こちらもちょっとダークで、でも不思議にキラキラしてたりする思春期の漫画。