「正直どうでもいい?」

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喋れない少女とエスパー少年『雪にツバサ』1巻

雪にツバサ(1) (ヤンマガKCスペシャル)雪にツバサ(1) (ヤンマガKCスペシャル)
(2011/12/06)
高橋 しん

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   翼がなければ 翔ぶこともなかったろう。傷つくこともなかったろう。 高橋しん先生の久しぶりの週刊連載作「雪にツバサ」1巻が出ました。 少年サンデーでやった「きみのカケラ」以来の週刊連載なんですね。 やはり「いいひと。」や「最終兵器彼女」を連載したこともあり、小学館のイメージが強い作家さんですが、講談社ヤンマガでの新連載です。最初ちょっとビックリしました。 現代を舞台とした、中学生の男の子と高校生の女の子のお話。 ちょっとファンタジーが入っていますが、なかなか読みやすい作品じゃないでしょうか。


周囲とうまく馴染めない中学生・翼。なんとなく不良グループに入っています。 そんな彼には、実は超能力者であるという秘密が! といっても手を使わずテレビをけしたりハブラシを動かしたり、これじゃ「少能力」。 実際手でしたほうが効率がよかったりして、せっかくの超能力なのにムダとしか思えないことも翼のネガティブ思考を増長させるかたちに。 しかしある日、となる少女の心の声を読んでしまったことからストーリーが動き出します。 翼が出会ったのは、しゃべることができない女の子・雪。 誰にも聞こえない彼女の声を、翼だけが聞きとることができるのです。 この2人をメインにストーリーは進んでいくのですが、まだ大きくは動かず。 とりあえず舞台の説明と、2人の馴れ初めと心のふれあいをしっかり描くことを重視したオープニングになっていると思います。丁寧に2人が近づいていくことがわかります。 その際、この作品のキーワード「超能力」が大きく働いている。 しゃべることができず、そのせいで酷い目にあわされることもしばしば。外見的にはかなりかわいい娘なので、街の不良たちに目を付けられてレイプされそうになったり。しゃべることが出来ないのでうるさくされる心配がないんだとか。いやぁ胸糞悪いですね。 彼女にはとにかく拠り所がないのです。友達と仲良くしてる様子もみられないし、翼を探して平日に街中うろついてる謎の行動力は、普通は周囲から疎まれてるだろうなと。しゃべれないという障害もきっと影響してるだろうし、そのせいで悲しい思い出もたくさんあること臭わせられる。(男たちにおもちゃにされてる的な・・・) まだ雪の家庭環境は明かされていませんが、そこも気になる所です。 そんな雪ちゃん、自分に超能力があると思い込んでめちゃくちゃテンション上がります。 ツバサ1 私には超能力があるに違いない。そう信じて涙を溢れさせる。 自分を劇的に変えてくれる。ドラマチックな未来がやってくる。 己だけではなんとも打破できない現実と戦う、新しい圧倒的な力を信じる。 普段はあっけらかんと明るい雪ですが、冷たい寂しさを溜め込んでいるはずなのです。 超能力の『誤解』がストーリーを動かし、少女を変えていくのかな。


でも雪ちゃんの拠り所が超能力だけではなく、翼くん自身でもありそうなのがステキだ。 ボーイ・ミーツ・ガールのぬくもりですよ。寒そうな作品だからより強くそう感じる。 でもこの主人公がまたクセモノで、名言されてませんがかなり馬鹿で、卑怯者。 本当に超能力を持っているのは彼ですが、彼はもう何かを成すことを諦めている。 卑屈になって努力をしない。さえない自分を受け入れてしまっている。 雪にツバサ まぁ自虐ですよね。自分なんてなにもできないし、誰とも必要とされてないんだと自分と言い聞かせる。誰かと関わることにちょっとした恐怖を抱いている。 でも、ときどき超能力がすごい威力を発揮する瞬間があります。 彼自身戸惑っていましたが、そのシーンを改めて並べて見ると、全部の場面に雪先輩が関わっている。雪先輩のためなら、彼はすごい力を出せてしまうのだ。 第1話、誰も聞くことができないはずの雪の悲鳴をただ1人聞きつけ、助け出せる程度には。 「自分でもなにかをすることができる」そんな発見をついにしてしまうのです。 訳に立たないと思っていた力だけど、女の子を守ることができそうなのだ。なんだ充分だ。 これまで無価値だった超能力は、少年と少女が出会ったとたんに輝き出す。 表面上は見えない、2人の意識のすれ違い。けれどそれも居心地の悪いものではない。 雪ちゃんが「自分には超能力はない」と気づいてしまった時は怖いですが・・・それはきっと先の話で。今は2人のぎこちないやりとりを眺めていたいです。 そういえば友達がいない翼くんですが、街のおねえさん方には人気なようで。 「翼の童貞はわたしたちが予約してる」とまで言われてる。どういうことだ! ツバサ2 翼くんもってもてやないか。まぁ童貞ってことでからかわれてる意味合いも強そうですが、羨ましいかぎりでござりまする。おねえさんたちも今後物語に強く絡んでくるかも?


そんな「雪にツバサ」1巻でした。 まだ展開に起伏が少なく、1巻の段階ではやや面白みに欠けたというのが正直なところ。 でも卑屈で寂しげなのに、どこか暖かな雰囲気づくりのうまさは流石です。 雪が降り積もる街において、ただひとつのぬくもりがあるように。 節々で感じられる切ない雰囲気、そしてメインの2人のやりとりの面白さが魅力。 この高橋しん先生は単行本での加筆修正が多いので、ためしに雑誌掲載Verと見比べつつ読んでみたりもしましたが、今回はそこまで大きな変更点はなかったです。 冒頭「翼がなければ」の詩と、第1話の冒頭がリファインが1番大きい箇所? あとせっかくカラーが綺麗なのだから、第1話の冒頭はカラーで収録してほしかった。 「雪」という少女、「翼」という少年。 タイトルはそのまま主人公である彼らの名前からですが、しかしそれだけではないメッセージが込められていそうでワクワクしますね。「雪にツバサ」。 話すことができない「雪」、彼女は翼という少年の存在でうまく羽ばたけるのか。翼は彼女をうまく羽ばたかせてあげることができるのか。 単行本頭に添えられた詩も、この先の展開を暗示するかのようで意味深。 『翼がなければ 翔ぶこともなかったろう。傷つくこともなかったろう。』雪が翼が出会ったことで、傷ついてしまう未来にもなってしまうのか。はてさて。 1巻のラストでは予想外に緊迫した雰囲気になってきましたし、今後どんなストーリーになっていくかは気になる所です。2巻は早くも1月に発売予定。 『雪にツバサ』1巻 ・・・・・・・・・★★★☆ 盛り上がりは2巻以降かな。雰囲気はかなり好み。雪先輩の笑顔に癒される。