「正直どうでもいい?」

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声にできない想いを託して『雪にツバサ』2巻

雪にツバサ(2) (ヤンマガKCスペシャル)雪にツバサ(2) (ヤンマガKCスペシャル)
(2012/01/23)
高橋 しん

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   この街で あの夜あったすべてのことが 雪に埋もれて消えたように。 コミックス2ヶ月連続発売で2巻目。高橋しん先生の「雪にツバサ」です。 久しぶりの週刊連載ということで近年スローペースな高橋しん先生にしては珍しいスピードですね。好きな作家さんなので嬉しいですが、物語もちょこっとずつ動き出しました。 話すことができない少女と、気が弱いエスパー少年の、田舎町を舞台にした冒険?のお話。 喋れない少女とエスパー少年『雪にツバサ』1巻


雪先輩と一緒にやってきた温泉にて、予想外のハプニングが。 近隣の街から逃走してきた殺人犯とバッタリ出くわしてしまったのです。 襲われる雪先輩の声をテレパシーで直接脳で感じながら、彼は彼女を守るために恐ろしいほどの力を発揮。今まさに先輩を傷つけようとする男を、本気で殺してやろうとする。 本来ツバサの超能力は本当にちっぽけで、「せっかくのエスパー能力なのにショボい」ということも彼のコンプレックスの1つでした。 しかし雪先輩と関係した時にだけ彼の能力は増幅させられます。 そのことは1巻の時からわかっていましたが、今回で彼は初めて自分の力を恐れました。 その気になれば人を殺すことだってできると知ってしまった。 無事に先輩を守れたことよりも、人の命を脅かしたことが彼にとって大きな真実。この事が彼を混乱させ、一時的に雪先輩との心の距離をつくりだしてしまいもする。 少年が背負うにしてはあまりに大きな力。それに揺らいでしまうのも仕方無いか。 しかしこの事件でもう一つ気になったのは、明らかに雪先輩の様子がおかしくなったこと。 男に襲われたショックのせいか、彼女は錯乱したような状態になってしまうのですが 途端に「何か・・・・あったんかい」と平穏そうに言い放ち、記憶が飛んだことが伺えます。 そして「またユキといけないことするの?」「どうしてユキにこんなことするの?」など、明らかに不穏な発言も飛び出す。 彼女は町じゃヤリマンと呼ばれてしまっている(喋れないのでガラの悪い男達にいいようにされていた様子)のですが、やはり性的なことで相当なトラウマを抱えているんでしょうか・・・。 生々しく暗い過去をイメージさせつつ、全貌はまだ漠然としています。 後々明かされることになるでしょうが・・・・高橋しん先生は優しい絵柄でエグいことやってくるのでなんだか怖いですなあ。 記憶を一時的になくしてしまうようになってるのも、彼女が心に深い傷を負ったことがあるからこその心の逃避行動の一種とすれば・・・、なんだかヘビーな予感。 でもこういう「痛み」を確かに潜めた物語だからこそ、切ない雰囲気がより色濃くなり、自分はムホムホ喜んでしまうのです。降り注ぐ雪と白い息が揺らめくこの世界観は、見てるだけで胸がざわつく。


2巻は殺人犯関連の序盤が強烈なインパクトを与えますが、後半からは新展開。 今度は雪先輩の学校の舞台に『超能力探偵団』(雪先輩命名)の2人は活動します。 行方不明になったアルトサックスを超能力で探しだそうとしますが・・・ しかしそこでも色々一悶着ありそうな、重い事実が出てきそうな。 ツバサ1 さて、このエピソード中に何気なく出てきたこのセリフが印象的でした。 雪先輩は喋れない女の子。ですから、なるほど、彼女は楽器を使っての「音」でしか自分の口から何かを伝えることはできないのか。 この連載では1巻のオープニングや表紙イラスト等に、印象的な形で楽器が登場するのですが、雪先輩が喋れないのと楽器が繋がるということに発想がいってなかったのでハッとしました。 意識してみればなるほど、彼女が楽器を吹くときの表情はなかなか深い。 ツバサ2 言葉で伝えられないからこそ、音で何かを届けられるように。 その姿や表情はちょっと神聖なほど。感情を込めていることがわかるような。 そして演奏は、誰かと一緒の舞台に立つための武器のようなものでもある。 しかし彼女と同じ部活の面々はちょっと雪先輩と距離をおいているようなこともわかります。雪先輩がたくさん笑顔になれるような居心地いい世界になるためには、雪の理解者がもっと必要なんですけどねえ。なかなか難しい。せめて部活の女の子たちには友達になってほしいなぁと思いますが、さてどうなるやら。


そんな2巻でした。 気になるといえば他にもう一点、2巻でいう第2話で登場した「雪だるま」の女性。 ゲストキャラ的な感じでしたが、伏線のようなものも張られたので、じきにまた登場することでしょう。しかしツバサはなにげに美人なお姉さんと遭遇してはフラグ立ててますな。 まだまだ続刊が出ていきそうな感じですし、続きを楽しみにするとします。 淡い恋と、チクチク胸が痛むような切なさが共にある、雪の町の物語。 主人公の変化が今後の展開のカギを握りそうですね。 『雪にツバサ』2巻 ・・・・・・・・・★★★☆ 話が動いた第2巻。相変わらず雰囲気の良さは抜群。女性キャラもかわいいです。