「正直どうでもいい?」

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震える心と指先。どうやってあなたに触れよう。 『三日月の蜜』

11月も折り返しとか・・・。

三日月の蜜 (まんがタイムコミックス)三日月の蜜 (まんがタイムコミックス)
(2010/10/07)
仙石 寛子

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   好きって言ってみていいですか 仙石寛子さんの2冊目の単行本「三日月の蜜」。 前作「背伸びして情熱」も良いものでしたが、今作も素敵な内容でした。 全8話の表題作と短編10作、そしてびっくり、巻末オマケには前作のあの2人・・・! と、非常に充実した内容の作品集となっています。 今回は表題作と、短編をいくつか取り上げようかなと。

三日月の蜜

表題作。切なくふんわりとした百合作品です。 ではストーリー。 主人公・佐倉さんは杉さん(男性)が好き。でも杉さんは桃子さんが好き。 佐倉さんは杉さんの恋を応援しているんだけど、同時に恋してもいます。 しかしながらその杉さんがとんだヘタレ野郎で、そんな彼にイライラを募らせている彼女。杉さんへのあてつけに、その場の思いつきで桃子さんに「付き合ってもいいですよ」なんて口にしてしまう。 でもヘタレ杉さんはその誘いにも乗らず・・・晴れて、佐倉さんと桃子さんのカップル成立。 最初は桃子さんへの申し訳なさでギクシャクしていた佐倉さん。 けれどいつからか彼女の心の揺らぎが生まれ、そして・・・。 オビでは「女同士って、どうやるのか知ってる?」なんて挑発的で刺激のある文句が置かれており、思わずそういう要素を求めてしまいますが、真摯に女性同士の恋を描いた作品。 押し倒したりされたりな嬉しいシーンももちろんありますがね・・・! ・・・さて、この作品の面白い所は佐倉さんの意識にあると思います。 桃子さんとの現在の関係は、自分の軽率な行動によるもの。 あの時は本心ではなかった。 けど今は?恋していないと、好きではないと断言できる? 好きだとしても、こんな恋のはじめ方は不義理じゃないだろうか。 でも、真実を告げるのも恐い。桃子さんを悲しませるのは嫌だ。 そして彼女は何度も泣きそうな顔をする。「ごめんなさい」と言う。 そんな彼女を変えていくのは、まぎれもなく桃子さんの存在。 佐倉さんを苦しめるのも、幸せにするのも、全て彼女です。 優しい笑顔。ぬくもり。言葉。ひたむきにを自分好きでいてくれる桃子さん。 桃子さんは佐倉さんが何かを抱えこんで苦しんでいることを十分に分かっている。その悩みがなんなのか、佐倉さんが誰のことを好きなのか、うすうす見破ってもいる。 けれど桃子さんは優しいままで、それが余計に佐倉さんを追い詰めていってるような・・・。 上手くいかないなぁ。でもそれが面白くて、胸がしめつけられて。 20101112233828.jpg そしていつも自分をリードしてくれていた桃子さんが、一歩引いてしまった瞬間。 耳元で自分の名前を囁いて、そして離れていく唇 もっと名前を呼んで欲しい・・・なんて感じる佐倉さんでした。 欲張りになってもいいんだ。それが人を好きになるってことなのだから。 こうなってからは転がるようにニヤニヤ展開が続き、俺もうどうしようかと・・・! これまでの切ない展開があるからこその、痺れる展開が終盤には待っています。 桃子さんが本当にまっすぐ「好きよ」なんて言ってしまうものだから 佐倉さんもうっかり「私も好きって言ってみていいですか」なんて言っちゃう。 いつだってウェルカムですよくっそおおおおとゴロリゴロリした自分です。 終始落ち着いたテンポのまま、さらりさらりと2人のやりとりがこなされ 切ない、けれど暖かな、ゆったりとした空気が出来上がっているように思います。 少しずつ近づいていく心の距離に、何とも爽やかな快感を得られる1作。

キラキラ青虫

これが表題作でもよかった」とあとがきに書くほど、作者の仙石さんもお気に入りの作品。 どんなお話かと言うと、ヒロインが青虫なのです。 20101114114228.jpg 本当に青虫です。 主人公の男の子のことが好きな青虫ちゃん。 2人の馴れ初め描写も舞台説明もないので読者としてはいきなり青虫ちゃんにばったり遭遇してしまう形で、自分も最初はちょっと戸惑いましたが、これが以外と良い。かなり良い。 ちょっとSな主人公と青虫ちゃんのやりとりは素直に微笑ましいし、主人公は人ならざる存在である彼女に嫌悪感があるどころかむしろちょっと好感持ってたりするので、すっと青虫ちゃんに馴染めてしまう。自分は。 青虫ちゃんがサナギなってからの主人公もかわいらしい。 彼女の成虫姿はどんなものなんだろうか。ちょっと想像してみると面白いかもしれない。 まぁ、きっと普通にアゲハ蝶なんだろうけれど。でっかいアゲハ蝶。 20101114114224.jpg キモかわいい。いや、かわいい。

夢でも、夢でも

人魚が登場するファンタジックな短編。 童話「人魚姫」や、日本昔ばなし「雪女」を例にあげながら 人間の男の子と人魚の女の子が、共存について話し合うお話。 結局上手い結論は出せないんだけれど、なんとか幸せな未来を見つけられないだろうか悩む人魚の姿は、思わず胸がズキっとしてしまう。 子供じみた理想論にすぎないかも知れない。 けれどどんな結末であれ、2人で一緒にいる間は幸福であるに違いない。 重いテーマを描いてはいますが、作品の雰囲気は明るく、締めくくりにも笑顔がある心地いい作品になっていると思います。切なくなり過ぎないどこか能天気な部分が救いでもあり、好きでもあり。

あなたにとって、わたしにとって

幼馴染の男女が観覧車に乗るお話。 男の子がフラれて、それを慰めるために女の子がデートに誘うところから始まります。 フラれて落ち込んでるのかと思いきや、別れを切り出したのは男の子からだったようで。 恋人から「もう好きじゃないかもしれない」と言われたことも、理由の1つではあるけど 男の子がショックを受けていたのは、自分の心のこと。 彼もまた、彼女のことを好きなのかどうかを見失っていた。 「一方的にフラれる形で終わってもいいから せめて俺は彼女を好きでいたかったな」 これがやたらと刺さる刺さる。 変わってしまうことが悲しい、悔しい。けれど認めるしかない。 ラストの幼馴染2人の会話を見るに、次の恋はそう遠くないと思います。 次こそは。

間接、直接

書きおろし漫画。前作「背伸びして情熱」収録の「赤くない糸」のまさかの続編。 どう来るのかと思ったら、結構ガチに近親相姦ネタを挑んできました。コメディで済ますと思って侮ってました。そう来たかと。攻めてくるなぁw 締めくくりかたも結論を置き去りにした不安定なもので、それもたまりません。 禁忌だからこそ、安定感がないからこそ、物語として魅かれてしまう。 やー、面白い。あえてこれを描いたということは、意味があることだったと思います。 弟君の「決意」。 彼はわざと、それを見せつけた。口にした。 さぁ、お姉ちゃんはどうしよう。 20101114114209.jpg 飲む?


まとめー。 前作が気に入った方はもちろんのこと、切ない恋愛が好きな方にオススメしたい1冊。 男女間の恋愛だけでなく百合作品もありのは一応注意点? 作者はBLも描きたいそうで、自分もこの作家さんのBLは読んでみたいです。 4コマ漫画の形式ではあるものの、完全にストーリー漫画として描いてあるので 普段4コマ漫画あまり読まないなぁ、という人も馴染みやすい、かな。 仙石寛子さんの作品は、「好き」などストレートな言葉を持ってくるタイミングがちょっと不思議。不意を突かれるような、けれどそれで流れが大きく変わるわけでもない本当に絶妙の位置でふわりと、軽く、強く。 それが面白いなぁと、ドキドキしながら読んでいます。 「三日月の蜜」は表題作以外の短編がたくさん収録されているので 最初にこの作者の世界に触れる1冊としても優秀なのでは。 ページを開くたびチクリと胸が痛み、そして優しくなれる、味わい深い作品集です。 『三日月の蜜』 ・・・・・・・・・★★★★ 色んな恋を楽しめる作品集。切ない、けれどそれだけじゃない物語たち。