「正直どうでもいい?」

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小悪魔なオトコの娘と恋に落ちた 『さざなみチェリー』

さざなみチェリー (IDコミックス わぁい!コミックス)さざなみチェリー (IDコミックス わぁい!コミックス)
(2011/10/20)
神吉

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   なにも恐れずに 永遠を信じることができるんだから とんでもないタイトルの漫画が出てしまいました。非常にどうでもいい私的な理由でですが!自分のHNにチェリーがついちゃってなんかいろいろほのめかされてる感・・・の思い込み。 さて、「さざなみチェリー」です。1巻完結作品。 一迅社が出しているオトコの娘オンリーマガジン「わぁい!」(コンセプトからして登場した当時は日本やっぱりどうかしてると思った)からの単行本化です。 手にとった理由はといえばまぁタイトルに興味を持ったからなんですが、思っていた以上にいい出来でした。ヒロインの漣(れん)ちゃんのかわいさに終始ニヤニヤしてしまうも、それだけではない作品に仕上がっていると思います。


恋をしてはいつも玉砕する高校生・一弘(かずひろ)。 今度こそ!と一目惚れした中学生らしい女の子を呼びとめ告白をします。 ところがその女の子は実は・・・・・・ いちおう実は・・・と隠しましたが、「わぁい!」掲載作であることがすでにネタバレでしたね。 しかし突然の告白にOKをもらい、主人公はかわいいコと付き合えるぞと意気揚々。 突然はじまったお付き合いは果たしてどうなっていくのか。 漣ちゃんがかわいいという事実はひとまずおいておいても、主人公も面白いです。 実はオトコだと知らされても告白を撤回せず、彼女(あえて彼ではなく)と付き合い始める。 性別に縛られることない、柔軟な恋愛観を持っているキャラクターなんですね。 単純に飢えていたから「かわいいしまぁいっか」と思った可能性がまったくないというわけではないですが、2人の時間を重ねていくにつれ、彼女へのまっすぐな親愛を深めていきます。 チェリー1 主人公の脳内ではちゃんと漣ちゃんとの夜の妄想もできています。 自分の彼女がオトコである事実をカンペキに受け入れ、恋人として今後の付き合いのビジョンも持てる・・・なかなかやるぞコイツ!本当にノンケか! そんな主人公ですが、あとがきで神吉先生も「ヒーローにした」と描いていたように、ちゃんとやるときゃやる男の子として描かれています。 この作品で展開される「性」をめぐる悩みにおいては、すべてを受け入れようとする彼の包容力が、ほかの登場人物らの背中をおしていきます。ナチュナルに人の良さがにじみ出てる男の子だなぁ。


さて野郎の話はおいといてヒロインの話をしましょう。と思ったらヒロインも野郎だった。 でもたとえオトコであっても、漣ちゃんのヒロインとしてのきらめきは尋常じゃない! 漣ちゃんはもちろんルックスからして最強にかわいいです。たまんないです正直。 チェリー2 んはーかわいい!かわいいなぁ!! 主人公の心をかき乱すような行動をあえてとっているかのような小悪魔ぶりも見せます。 かわいさを武器に男の子を惑わせるというのは、漣ちゃんにとってはきっと最大級の目標なんだろうなぁ。かわいくありたい。自分のかわいさを認められたい。 しかし確実に心惹かれていっている乙女チックな心理描写もあります。手玉にとりつつ自分も彼から離れられなくなっていってるような感じがまたかわいいじゃないですか! この作品は漣ちゃんのかわいさをフィーチャーしたものであり、彼女がかわいいのはある意味当然と言えるかもしれませんが、彼女が「かわいい」だけのキャラに落ち着いていないのもよかった。 男の娘らが背負う切なさや業にまで踏み込んだ内容となっており、読ませます。 チェリー3 男でありながら、女の子としてのかわいらしさを求める漣。 それは彼女の姉との過去に根ざしたこだわりであり信条でした。 かわいらしくあることに価値を見出した。自分がかわいければ、よろこぶ人がいる。 逆を言えば、自分がかわいいのであれば、それを正当に評価して欲しい。認められたい。 強引に自分の「女の子」を押し付けようとさえする彼女は、傲慢といえるかも。 しかしそこで改めて知るのが、一弘という男の子の懐の深さです。 女の子として、もしくはそれ以上に人間として自分を愛してくれる。 自分の汚さすらも受け止めてくれるんだから、まさしく主人公はヒーローだなぁ。 マイノリティーな生き方を支えるのは、複雑な同情などではなく、シンプルな愛情。


「女の子って、いいよね」というようなロマンを、あえて少年に宿らせることでより神秘性を増強させていた作品のように思います。 神吉先生のあとがきにありましたが「男の娘は、少年が男になる前に一瞬だけ実現可能なファンタジーであり、そこで生じる不安やときめきの揺らぎの中の輝きを表現したい」は名言であり、この作品はこれを成し遂げることに成功した作品になっていると思います。この作品の真髄がこれ。 永遠じゃない、期限付きのかわいらしさ。 いつかこの身体は男のそれへと変わる。もう女の子ではいられない日がやってくる。 けどそんな自分を愛おしいと、女の子としても1人に人間としても思ってもらえれば。 でも願うなら永遠に贅沢にかわいらしい女の子でありたい。 愛したい、愛されたい。イロモノジャンルとおもいきや、切実なメッセージが込められた作品。 なるほどなぁ、男の娘っておもったよりロマンチックな存在なんだな。 独特の価値観があるけれど詰まるとこ、なにより楽しく生きたい、自分らしくありたいという、なんてことない欲求がすべてなんでしょう。 そんな発見と、漣ちゃんの文句なしのかわいさをゴロゴロ楽しみました。 小難しいことを考えつつも、「漣きゅんかわいいよお!」で楽しめてしまうのもいい。 もっとシリアスに話を深めていってもらっても全然かまいませんでしたし、ほんのちょっと手が届かないもどかしさは感じましたが、まぁあんまりやりすぎてもこのヒロインかわいいよおおキュンキュンっな雰囲気が崩れてしまった恐れもありますし、いいバランスだったのでは。真顔でちょっと気持ち悪いまとめをしてみました。 『さざなみチェリー』 ・・・・・・・・・★★★☆ 男の娘ロマンを感じさせる一作。おっこの子かわいいな、と思ったら買いでしょう。