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本当の戦士への第一歩 『ヴィンランド・サガ』10巻

ヴィンランド・サガ(10) (アフタヌーンKC)ヴィンランド・サガ(10) (アフタヌーンKC)
(2011/04/22)
幸村 誠

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   本当の戦士になれ!!トルフィン!! アフタヌーンにて連載中の「ヴィンランド・サガ」10巻です。 連載で追っていた自分は最近単行本を買いそろえ、改めて読み直していました。 ファームランド・サガって呼ばれてるのもある意味納得。1巻の表紙と見比べれば舞台も主人公もいろいろ変わりすぎですが、作品の根底は一貫されているように思います。 特に今回は主人公のトルフィンに大きな変化もあり、見逃せない内容。 では感想をー。


奴隷となってしまい、何の希望もなく生きるトルフィン。 買われた先の大農場で奴隷からの解放を目指し、農作でお金を稼ごうとがんばる毎日。 しかし奴隷となってからできた友人(?)のエイナルと友に過ごすうち、トルフィンにもささやかな変化が生じ始めます。表情が柔らかくなり、表情も以前と比べれば豊かに。 ところが彼らはあくまで奴隷であり、「金で買われた道具」。たまたま彼らのいる農場の主は心優しい自分なのですが、それゆえにこの農場には彼らを快く思われない人たちも少なからずいます。 畑仕事を汚れた奴隷にさせるなんて気に食わない。これでは奴隷でない自分たちと同等の立場にやつらがいるみたいじゃないか。・・・まぁそんな風に反感を覚えているのが農場で雇われている奉公人。「奴隷の作った麦なんざ臭くてくえやしねぇ」等、差別的発言も見られます。 この10巻では奉公人らが問題を起こし、トルフィンたちとの大騒動に発展していきます。 今回の注目どころは間違いなくトルフィンの変化。 生きる目的だった復讐も、それを果たすべき相手を失ってしまった彼ですが 海とも戦いとも離れた地で、奴隷として生きる中で、何かをつかんだのでした。 奴隷編になってからのトルフィンはかつての面影をほとんど感じさせない様子で 今回の10巻でも、エルナルが奉公人たちの理不尽さに激怒してる中、冷静に彼を止めようとするトルフィンは、正しいけれどどこかさびしい印象を受けてしまいました。 「まずは冷静になれ、復讐なんていいことないよ」って、お前が言うのかよと。けれどこのときのトルフィンの目はひどく純粋で、自らの経験談によるアドバイスなのか、それとも単に客観的な意見を言っただけなのかちょっと判別付きません。どっちだろうなぁ。けどやはり彼の口からこの言葉がスルリと出てきたことには、なんにしろ驚いたものです。 そんなこんなで牙をなくしたようなトルフィンに少々やもやしつつ、少々さびしい想いもいつつ読んでいたら、インパクトあるあの見開きページにたどり着き一気にスカッとしました!やってくれたーっていうね!直前までエイナルを止めようとしていたのになw やってしまった後、無意識のうちに手が出てしまった、という風でトルフィン自身戸惑っていたようですが、やはり彼の中にも積もり積もっていたものはあったのか。 ここまで衝撃的な人生を歩んできた彼は、まるで子供のような男でした。 実際子供だったのですが、復讐という目的にこだわり精神面の成長が遅れていたのか。 けれど今回、彼の明らかなターニングポイントが訪れたのです。 今回争いの中で意識を無くしたトルフィンは、これまで何度も見、そのたびに忘れてしまったいた悪夢の世界に、深くもぐっていきます。 そこに待っていたのは、死人たちが戦闘の快楽に溺れながら殺しあう、地獄。 想像の中でアシェラッドとの再開を果たし、そして見せ付けられます。過去自分が犯してきた、けれど何も感じないままだった、鮮明すぎる罪。 この夢はすなわち彼の深層心理であり、つまり彼は自分の罪をうっすら感じてはいたけれど、それを見てみぬフリをしていたということ。しかしこのとき、過去へのあらゆる罪悪感が、一斉に彼に襲い掛かってきたのだ。 自分が殺してきたものたちに対し、大粒の涙を零すトルフィン。 逃げるなよ、背負った罪から。目を逸らすことなんて許されないのだから。 20110511210339.jpg そして目を覚ました彼は、以前までとは大きく違っていました。 新たに目指すのは、完全なる暴力との決別。 1巻の頃から印象的に作品に登場してきた「本当の戦士」という言葉がこの10巻でも用いられていますが、今やっとトルフィンは「本当の戦士」に向け進みだしたんだなと感じました。 剣を海に投げ捨てた父・トールズのような、高潔で困難な目標を彼は打ち立てたのです。 トールズが実現した、アシェラッドが憧れた「本当の戦士」に彼はなれるのか。 暴力の世界で成長してきた少年が、これからどう生きていくのか。気になる所です。


明らかな変化の巻。それが10巻であるといえます。 この巻の最後、トルフィンは海賊をやっていた頃とも、奴隷編初期のころとも違う目をするようになりました。強い力と光が感じられます。 20110511210317.jpg こんなに生き生きした表情をすることになるとは。本当に嬉しいです。 作画は今回も精密かつパワフル。びっしり書き込まれた背景にも惚れ惚れしますね。 もとは週刊連載として始まった作品とは思えない連載ペースになってきていますが、まぁこれだけ書き込んでいたらしょうがないのかなぁとも思いますw 11巻は当分先になってしまうのかなぁと少々残念ではありますが、様々な点で変化が見られ、どんな新展開が待っているのかと非常に楽しみです。クヌート達との再会はいつだ! かなり長い物語になりそうですが、最後まで見届けたいですね。 『ヴィンランド・サガ』10巻 ・・・・・・・・・★★★★ 重厚な読み応え。トルフィンの成長にとてもいい気分になれました。