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「夜と海」2巻が発売されました。ので、1巻とまとめてご紹介。
・・・が、いまちょっとすごいのでこれも先に申し上げておきたい。
https://twitter.com/g0umot0/status/1151478518112370688
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え・・・? 無料・・・?
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お手元に「夜と海」1巻を実質無料で招き入れることができるチャンス。
マジでおすすめ。(なお俺は紙で買っている)
と
いうわけで内容ですが、ざっくりいうとモダモダしている百合ものです。がっつり恋愛描写gあるわけではないですが、じんわりと惹かれていくのを見守る作品。
ですが、それだけではこの作品は語れない。語り尽くせない。
1巻は発売から少し経ってからふと手にしたのですが・・・・・・もうね、素晴らしいです。絵、うまっ・・・。漫画、うまっ・・・。それしか言葉が出てこなくなるくらい引きずり込まれる。特別なことなんて描いていない。学校のなかで起こることが人生の8割以上、そんな狭い箱庭のなか。少女たちが悩んだり、ちょっとうれしくなったりするお話。
なぜこれだけ惹き込まれてしまうのか。
時折、ひんやりとした感触があるのだ。いやむしろどんな時にも、この作品を読んでる間、その気配は漂っている。
彼女たちが漂う 洪大な宇宙のような、はたまた光の届かぬ深海のような、思春期の窒息感や退屈やままならない感情。
それらをこの作品はより視覚的に描いていく。
シンボリックなのはつねに画面に映り込む海洋生物たち。色とりどりの魚たち、古代魚、クラゲやエビ、ちょっとグロテスクな深海魚・・・ 現実風景の上に、もうひとつの世界が出来上がっている。
物語はシンプル。けれどそこに浮かび上がってくる人間模様がこれほど奥深いのは、そう感じさせてくれるのは、少女たちの心象風景をうつしだす『もうひとつの世界』が実に雄弁なためなのだ。
なにより、ビジュアルとしてとても、とても美しい。
うっとり見惚れるほどに作画がいい。
1コマ1コマほんとうに美しくて、そのうえいまノタマッているように様々な解釈をさせてくれる引き出しのおおい無音の空間が存在している。間のとり方、表情だけで魅せてくる演出などと合わせ技がめちゃくちゃ鮮やかなんだ・・・。
そしてそこからにじみ出る感情の残り香のような”断片”にこれ以上なくドキドキさせられてしまうのだ。
日常とファンタジーが同居して描かれる。このいい意味での違和感がこの作品の個性というか強みにもなっていて、何層にも折り重なった感情のひだとしてひらひら、ふわふわ揺れている。
主人公のひとり、月子。周囲にあまりなじまない彼女は、口数も少ない。
彼女を読む解くためにはこの『もうひとつの世界』をヒントにしていく必要がある。
海洋生物たちは様々な表情を見せてくれる。なんなら現実の人の顔が、魚に見える場面もある。
「なぜこの魚が?」と、読みながら自然と考えさせる作りになっている。印象的に、かつメッセージ性をたっぷり含んで顔をのぞかせているのだ。
うつくしい背びれをヒラヒラさせたり、ゆらゆら、ゆらゆら、水中を漂う。それは彼女の気持ちそのものだろう。
あるいは、そうありたいと彼女が願う姿だろうか。
海洋生物だけではない。
泡立つみなも、うずまく水流、体ごと呑まれそうな大波。
海模様そのものも彼女の気持ちを映す鏡だ。物言わぬ彼女の動揺をなによりも表現している。
この場面なんかは、荒れる海模様が、相手の表情やふきだしを覆い隠してもいる。
耳をふさぎたい、とにかくぶつけたいという、彼女の焦りや怒りのような感情がヒシヒシと伝わってくる。気持ちと「水中」がこんなにもリンクしてくる。
例として挙げたけれどとにかくこういった細かな演出や技法が随所に散りばめられていて、ぱらぱらと読み返すたびにみずみずしく発見がある。漫画、うまっ・・・。
などなどと考えるだけで、いくらでも彼女たちの心模様に可能性が感じられるのだ。
無限に読んでいられる奥深さがここにある。解釈バトルが俺の中で巻き起こる。なんならトーナメント戦だ。決勝戦は「寂しさ」と「切なさ」だ。「心強さ」とかは初戦敗退。
そして考えていくと、女の子同士が惹かれ合う感情だけじゃなくて、もっと根源的な感情やキャラクターの背景までもは描きこまれているように感じられる。
なんで月子はこんなにも海に自分を投影するのだろうかと思えば
第4話で幼少のころ、父親と水族館へ遊びに行った思い出が語られている。
きっと、このときに彼女は、感情ぜんぶ、水族館からみえる世界へおいてきてしまったんだろう。
水槽のガラス壁を超えて、本当の自分を、あちら側へ託してしまった。
度重なる引っ越しによって、彼女を蝕んだ幼少からの孤独。
慰めだったのかもしれない。「あんなふうに自由に泳ぎ回りたい」と。羨ましくなったのだろうか。素直に楽しかったのだろうか。
それが水中、もうひとつの彼女の世界への、扉だったのかもしれない。
現実の月子は泳げない。
それというのも、泳ごうとしてない彼女自身のメンタルが影響しているように思う。
そして自然に彩のことを目で追うようになったのも、気ままに泳ぐ彼女を見ることが当たり前になったのも、月子の気持ちが水中に取り込まれることに深く深く結びついているはずなのだ。
そして月子だけではない。水泳大好き少女、彩。
この作品は彼女のもちまえのノーテンキさというか明るさに、だいぶ救われているようにも思う。ほんとうにいい空気をもったキャラクターなのだ。素直だけどバカなんじゃない。ちゃんと思いやれて、ちゃんと悩んでいる女の子。
彼女の心象風景は、限られた場面にのみ発動される。
主なものとしては月子を吸血鬼にみたてている時とか、月子が不機嫌なときにはコウモリが空を飛ぶような演出がされる。
彩が彩なりに、月子の気持ちのむきを探ろうとしているのが伺えるのだ。
けれどより印象的なのは、月子を光に見立てているとき。
月子がまとうオーラを、彩は光として認識しているのだろう。彼女の視界から月子をみる場面では、月子は女神のようにピカピカしていたりする。
光、そしてそれは水中に挿し込まれた脚にも宿る。
ほかに部員のいない水泳部。
ひとりでプールを満喫していた頃とは変わり、いまや彩のみる水中世界には、月子の姿が映るようになった。脚だけ、だけど。
けれどそれがそれが不快ではない。それどころか嬉しくなってしまう。自分にないものをたくさん持っていて、きれいで気難しくて、ぜんぜん思い通りになんてならない存在。そんな月子にワクワクしている。
2巻第7話46頁、「水の中は私の世界で、自分ひとりがいればいい」と彩は言っている。
・・・そのはずだったのに、心のどこかでもっと月子がそばにいてくれればいいなと思い始めていたりもして。けれどそれが果たしていいことなのか、直接いって届くことなのだろうかともだもだ頭を悩ませてしまう。これだよなぁ。これですよ。にっこり。
自分だけのはずだった世界に、だれかが触れてくれる喜び。
水面から挿し込まれたその2本の脚を眺めるとき、彩の表情がいつになくやわらかに感じられるのだ。
月子にとっての水中と、彩にとっての光。
もうひとつの世界と、もうひとつの世界。それは誰にも共有されない。それぞれが勝手に見ているだけの景色だ。ひとりだけが感じている光だ。勝手に作り出した世界であり、それはきっと現実ではないのだから。
けれど手を取り合う時、彼女たちの世界は混じり合った。
きらめく海。
共有されないはずの2つの心象風景が混じり合う。そこにこめられた意味に震える。感情が深く結びついて、たしかにピカピカと瞬くのを感じる。
そして囁かれる甘い言葉、ちいさくゆれる心。
それを読者だけが感じられる。ふたりがどんな世界を心に感じ取っているかを、どんな言葉より雄弁にこの『水中』が物語るのだ。混じり合ったふたりの世界がきらきら瞬く、こんな美しい瞬間を確かめられる。
こんなに贅沢な観客席はないなと思う。
「夜と海」、おすすめです。
まだまだ見たい。このひんやりとした水中で、透明になった心で、ふたりがどんな学校生活をこれから送るのか。
ところで
https://twitter.com/g0umot0/status/1151075058661482496
「夜と海」イメージカクテルのフレーバーテキスト(か?)が最高
有限性の関係!華奢な執着!!これだよ・・・!!!!