「正直どうでもいい?」

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消えたアイドルと消えた作家の共犯劇 『君はゴースト』

君はゴースト 1 (Feelコミックス FC SWING)

君はゴースト 1 (Feelコミックス FC SWING)

  • 作者:染谷みのる
  • 出版社:祥伝社
  • 発売日: 2017-10-07

 

君はゴースト 2 (フィールコミックスFCswing)

君はゴースト 2 (フィールコミックスFCswing)

  • 作者:染谷みのる
  • 出版社:祥伝社
  • 発売日: 2018-06-08

干されたはずのアイドルが数年ぶりに蘇った。復讐を目的に。 主人公の佐倉は作家としてデビューしたもののヒット作に恵まれず、ゴーストライターとして生計をたてる青年。そんな彼に突然妙な話が舞い込む。表舞台から姿を消したはずのアイドル・真咲遥の手記の代筆。そしてそれは、彼女が企てる復讐劇の片棒をかつぐことを意味する・・・

実際手にとって見ますとですね、めちゃくちゃに装丁がキレイなんですよ。特殊紙を使ったカバーと白を基調にした色合いに、ミステリアスなキャラクターの表情が際立つ。表紙買いです。 あと設定も素晴らしい。消えたアイドルを秘密に迫るミステリー風味から業界の闇を描くサスペンスに移っていく。扱っているテーマがなかなかダークなものではあるものの、ヒロインも主人公も清涼感のあるキャラクターなおかげでさっぱりと読めます。

全2巻。こういうボリュームの漫画がとても好きで、フィーヤンはいい短編の良作を生み出してきているんですよね。昔だけどエロエフとかもそういうイメージがある。 登場キャラクターも整理されていてよぶんな配役がない感じもスッキリ。

 

そしてヒロインがいいですね・・・!ファムファタル感ある。ファムファタルにしてはやや弱いのだけれど、それすらも人々を引きつける魅力になってるのがタチ悪い。

ゴースト1

ぜったいロクでもないでしょ。でもそういうのに巻き込まれる物語が好きなんです。裏切られてボロボロになって、そこから再起して表舞台に戻ってきた。殺意にも似た決意を握りしめて。ドラマチックな女性だよなぁ。

個人的にはヒロインにしろ主人公にしろ、もっと激しい感情を燃やしていてほしかったとも思う。テーマが復讐でそこはきっちりと完遂したのだけれど、もっと人生を狂わされていてほしかった。主人公はもっとコンプレックスを持っていてほしかったしヒロインにはもっと女という生き物を拗らせていてほしかった。設定からして性癖的にめちゃくちゃ好みだったけれど、想像を上回るなにかが少し欠けていて、おとなしすぎたような感じ。

もっともそんな暗い方向に突き進んでいたら、本作のラストシーンのような爽やかな春の日を迎えられたかというと非常に疑問なので、ようは自分が悪い。ライバルキャラだった茜ちゃんがもっと掘り下げられていればさらに嬉しかった。のし上がるために多くのものを犠牲にしてきただろうから。

ダークな部分は控えめだったけれど情緒的なムードは抜群で、不安定な人生のなかに触れ合えるぬくもりの歓びが感じられる祝福感と、あと引くどこか甘酸っぱい喪失感。終わり方がオシャレな漫画はこうかばつぐんなんだよな。そういえば主人公は佐倉だし、ヒロインは真咲だし、どちらも見事にラストシーンを意識して名付けられていてニヤリとさせられる。

 

 

気持ちいい作品でしたね。業界モノとしてのディープさを求めるものでないけれど、ふたりを繋ぐストーリーはとても誠実で、本質で惹かれ合っているという感じがある。

でも度々言うけれど、ラストシーンがとてもいい。恋とはまた完全に別物として”憧れ”が描かれる。目には見えるが触れられない。そんな幽霊のような憧れの感情。恋人になってもなお解けない魔法のような、異性としてではなく存在として尊ぶような、畏れとも信仰とも近いような。そういう複雑怪奇でオリジナルな誰かを見つけたときの感情のひとかけらが変質して恋だの愛だのになるのかもしれない。本物に届かなくたって君の幽霊を追い続ける人生。

 

そしてサブタイトルで気付かされる。あなたもわたしも幽霊。あなたにとって。わたしにとって。お互いが憧れ合う、ふたりの関係性がささやかに鮮やかにしめされる。いい落とし方だ。ストーリーと装丁が完全にシンクロしている。本として愛情を感じられる漫画です。

 

 

君はゴースト2