「正直どうでもいい?」

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感情ぜんぶ、あの人に支配されるまで。『潜熱』2巻

 

潜熱 2 (ビッグコミックス)

潜熱 2 (ビッグコミックス)

  • 作者:野田 彩子
  • 出版社:小学館
  • 発売日: 2018-05-18

1巻のときの記事は↓

危ないひとを 好きになってしまいました。『潜熱』1巻

幾度となく私を焦がす、私だけの熱病。

ごくごく平凡な女子大学生。その片思いのお相手はヤクザ。 1巻ラストでは寝る覚悟まで示してみせるほど暴走した恋心。まぁそもそも相当な年の差なわけで、「俺と寝られるかい?」と聞けてしまう逆瀬川もなかなかな一品だなぁと感じますがそこらへんが相当の人生経験の証明でもあるのか。ともかくここらへんからは、子供じみた初恋がどうとかの話なんかじゃなく、男の女の、生々しい感情のぶつかり合いだ。

けれども逆瀬川は飄々と瑠璃を躱す。 それは駆け引きなのか。ヤクザとして一般人を巻き込みたくないという思いがあるのか。弄んでいるのか。大切に思われているのか。底知れない逆瀬川の対応にふりまわされていく。

潜熱22

っカぁ~いいシーンだなぁ、魅せ方うまいんだよ。この枯れた指の質感のエロス。

 

明らかに男女としての関係は深まっていく。けれどどこまでを望む?すでにヤクザとして生計を立て、生活を営む男を相手に、平凡な女子大学生はどこまで行ける?どこまで染まれる?

そういう意味でこの瑠璃という主人公はとことん恐ろしい。

手に入れたいもののために自分すらも捨てられる、なんにでも染まれてしまう人間。そういう人種が1番恐ろしいのかもしれない。それまでの価値観をたやすく捨てられるような、自我が弱いようでただひとつの正しさを決して手放そうとしない。その正しさが果たして世の理に沿ったものかどうかが分からない。

 

潜熱21

 

2巻の瑠璃はそういった未来を想像するに足るオーラというか、片鱗を覗かせる場面が多かったですね。煽ってきたムカつく女に対抗しようと夜の街に潜入したり、そのままキャットファトにしたり。決して好戦的に挑みかかるようなことはしてないんだけれど、結局自らそういう場に向かっていってる時点で似たようなもんなんだよな。すべては証明のためなのだ。逆瀬川のいる世界に、私だって行ってやるって。止めてくれた親友の気持ちを裏切ってもなお心は夜へ進む。明けることなんてない、夜の世界に。

ただでさえ女くさい瑠璃ちゃんなのに、今回出現したライバルキャラのメンヘラガール・あかりちゃんもまーーーーた女クサさ10万ポイントくらい持ってそうな娘である。そのポイント適度に使ってかないとあとでホント困るんだかんな。カード落としたときとかヘコむから。ポイントためたらどんな景品もらえるのかな、検査薬とかカミソリとかかな・・・まぁともかく、個人的にかなり好きなキャラクタです、あかりちゃん。こういうアグレッジブでかつ病的に過去や男に束縛されている不幸体質な女の子って目が離せない。ストーリー上なかなか幸せにはなれないんだけれど。

 

潜熱23

 

自らを変貌させ、姉を虜にし死に追いやった男を追いかけ、抱かれ、手に入れようとするあかり。どんな結末を彼女は欲しがっているのだろうか。彼女自身すら分からないのかもしれない。あまりにもちぐはぐで理性的でない人生をいっている。そこに彼女にしか理解しえない美学や怨念がある。そもそも逆瀬川ってそんないい男か?っていう・・・盲目的な恋に堕ちた人間にしかわからない思考回路を描かれてしまっているので、もう感情移入とかの領域ではなくハラハラと見守るしかない状況。

 

 

ショッキングなシーンも多かったので、3巻はまた逆瀬川さんとおデートする瑠璃ちゃんがみたいな。もう準備まんまん、今日こそはって気合入りまくりの瑠璃ちゃんがまんまとかわされていく(そうして赤面して撃沈する)、そういう可哀そうで微笑ましい恋愛模様がみたい。 全身が紅潮するくらい恥ずかしがるあのシーン、めちゃくちゃかわいかった・・・。

けれどいずれ彼女も変わる。だれかの不幸を望んだりもきっとする。 純朴だった乙女が自らの意思で汚れて堕ちていく。 感情ぜんぶ、あの人に支配されるまで。

そんな姿を見ることが恐ろしく、同時にとても楽しみなのだ。

 

それにしても今回も絵が美しすぎる。このペンタッチに完全にヤられる。ちゃんと最後までのこの危うく美しい物語を描いてほしいなぁ。重版もきまったようで目出度い。これで万年筆もっと買えますね。