「正直どうでもいい?」

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With Me Tonight.『アフターアワーズ』3巻

アフターアワーズ 3 (ビッグコミックス)

アフターアワーズ 3 (ビッグコミックス)

  • 作者:西尾 雄太
  • 出版社:小学館
  • 発売日: 2018-01-12

めちゃくちゃ好きなお話でした。傑作。 大人にしかできない、この夜にしかありえない青春。ダンスミュージック。憧れのDJブースの君。揺れるフロアの喧騒。恋。夜と朝が混じり合う、パーティから日常へと移り変わる。いちばん好きな時間。アフターアワーズ。ライト・アンド・ミュージック。日が沈み、再び、朝日が昇るまでの話だ。

社会人同士のガールズ・ラブとしても、クラブ文化を描いた作品としても、どちらをとっても極上。

気持ちの整理もうまくつかずに感想を置いておいたら2巻の応募者サービスの特典冊子まで到着してしまった。これで「アフターアワーズ」は全部が幕引き。しんみりとしながらも、まあ書いてみようかと。いや完結巻でたの相当前ですけどね・・・。

1巻の感想は昔書いた。

ナイト・イズ・スティル・ヤング.『アフターアワーズ』1巻

いま思い出してもムカつくけれど、この作品は続刊が出せなくなる事態となっていた。作品を人質にとるようなマネをしてくれるなよとまじで腹が立ったけれど、いやぁ、無事に完走出来てよかった、ほんとに。打ち切りっぽく終わるんじゃないかという危惧もあった。しかし蓋を開けてみれば完璧。完璧なエンディング。ジャストサイズ。全3巻。余韻はたっぷり、けれど削ぎ落とされたスマートさ。

アフターアワーズ31

クライマックスの物寂しさは饒舌に尽くし難く、『なるほどこういった形で大人の青春期の終末を描いてくるか』とゾクゾクが止まらなかった。主人公たちと同じタイミングで心揺さぶられ、思いっきり悩まされ、そして熱くさせられた。魅惑の夜の住人となった主人公が、社会にもどり朝日を浴びるエンディングはまさに作中で語られた『アフター・アワーズ』。1番好きなひととき。

[youtube https://www.youtube.com/watch?v=nUJF0JyTqKI&w=560&h=315]

Stardust - Music Sounds Better With You

クラブやダンスミュージックに憧れがありながらも踏み出せてなかった頃に1巻が発売され、読んで、そのままテンションあがっちゃって人生初のクラブ遊びをキメた。まぁアニクラなんだけど。オシャレな大人たちがクールに遊んでるんじゃなくてオタクがはしゃいでるだけだったけど。でも、自分のなかでひとつ大きな扉を開けられたような気がして、本当に感謝をしている作品なんです。作品としての質の高さはもちろん、なんというか、人をひきつけてやまない魔法が宿ってる物語だった。吸い込まれそうになって、少しでもこの世界に近づきたくなるような。

クラブにはじめて足を踏み入れて、それから恋をして、夜の楽しみ方を知って、イベントを開催する側になっちゃったエミ。それを通じて読者もぐんぐんクラブ文化に接近していく。百合漫画として取り上げられることも多いけれど、カルチャー的側面から考えてもなかなかに稀有な存在だったのではないだろうか。少なくとも主人公がクラブイベントを主催してハコの手配からなにから果てには自分でVJまでやり遂げる漫画をほかに知らない。オタクをクラブに駆り立てるスゴイ漫画だったんですよ。

それで最終巻の内容について触れると、主人公の成長っぷりが目覚ましいってことだ。クラブの右も左もわからなかったひよっこがよくぞここまで・・・。自分たちで成し遂げたイベントの明かりを屋上から眺めるシーンのカタルシスが素晴らしい。自分の好きなことをやり遂げてこんなふうに夜の風を浴びたい。なぁそうだろ。そういうのしたこと無いんだよ。眩しすぎるんだ。

アフターアワーズ32

追いたい夢がある。ともにありたいと願う時間や大切な人がある。

けれどそれだけで生きていけない。暮らすために働いて、人知れず涙も流してこらえてふんばって、それでも悲しい現実に直面することだってある。大好きなものを諦めてしまう瞬間が訪れることだってある。どうしようもなく。避けられようもなく。

3巻中盤から襲い来るシリアスな展開は、まさに大人だからこその現実が障壁となり2人を引き離す。第16話のラストで、ただただ壮大な山並みと、その元に薄く低く広がる町並みのカット。物言わぬその光景こそが、2人を分かつ強烈なリアルなのだろう。

都会の夜は明るい。音楽があり、灯りがあれば人も集う。でもこれからケイちゃんが生きなければならないリアルは、そういった世界とは縁遠い場所だ。大人としてコミュニティに属し、そのなかで求められた役割と責任を果たしていく。大人としての生き方だ。それをつまらないと否定することはできない。切実なのだ。生きていかなければならないのだから。

それでもケイちゃんが好きなものを好きでい続けられるのはエミちゃんのおかげに違いない。あの夜ふたりが出会わなければ、ケイちゃんを引き止められた人がいただろうか。同じようにエミちゃんもクラブにはまることも無かった。音楽を聞くだけでなく、そのための場を作り上げることを楽しさや達成感を味わい共有することも無かった。あの夜、あの一瞬がふたりの人生を変えた。

あふたー34

大人だからこそできる青春があって。でも大人だからこそ立ち向かわないといけない様々な障害もあって。夢中になればなるほどもっと深く沈み込んで、そして傷ついてもなおあなたをこの場所で待ち続ける。振動が好きだった。クラブで響くビートサウンドが。脈打つあなたの肌が。はじめての遊びを覚えて高鳴る自分の心臓が。

楽しいも"大人だからこそ"なら愛し方もそうあろうという2人の決意がたまらなく心地よくエモエモのエモ。愚かだろうか。こんな日々をひとは「いい年して」と嗤うだろうか。それでもいいさと笑い飛ばせる爽快さと力強さを見せつけるラストシーンが大好きなんです。カッコいい大人たちがたくさんいる漫画だから。悪い大人と思われても、諦めの悪い大人になったほうが、人生楽しいはずだから。いまが"アフターアワーズ"と、決めつけるのも早いはずだから。いやむしろ、アフターアワーズを一時を楽しめることが大人になるってことなのか。

 

アフターアワーズBS1

アフターアワーズBS2

 

先日到着した限定描き下ろし冊子 「アフターアワーズ Bonus tracks」。

第2巻のオビで応募できたものです。ふたを開けてみれば60ページを超す無料とは思えないボリュームで大満足。あくまでもボーナストラックということで、本編とは切り離された描き下ろし漫画だったりコメディタッチのオマケ漫画、設定画が収録されています。完結後にじっくり読むと、いっそう味わい深い。8年前のロングヘアだったケイちゃんとか貴重ですなぁ。

 

 

これで本当に「アフターアワーズ」が終わってしまったか、と寂しくもなります。でもそれよりも、出会えたことの感謝が大きい。個人的に全3巻できっちりと幕を閉じたってのは作品のかたちとしてメチャクチャかっこよくて惚れ惚れしますね。もしかしたら作者として望んだタイミングでの終了ではなかったのかもしれないけれど(事情が事情だったので)、ムダと感じる展開もなく一気に駆け抜けていった。クラブ×社会人百合というややニッチなジャンルの漫画でしたが、もっと広く読まれてほしい傑作ですよ。「大人たちの青春」の描き方があまりにも眩しく魅力的。そして主人公2人の思いを丁寧に紡ぎあげていったストーリー。文句なし。ながく本棚に入れて、エモ成分を摂取したいときに幾度となくページをめくりたい。

西尾雄太先生ありがとうございました。次回作、めっちゃ楽しみにしてます。

 

 

[youtube https://www.youtube.com/watch?v=LCIVOQ1QASM&w=560&h=315]

好きなので記事タイトルに使ったけど、作品には関係がないしクラブミュージックでもない。

でも好き。With Me Tonight.

 

 

 

 

 

アフターアワーズ33