「正直どうでもいい?」

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私たちは 違う世界を 同じ速度で走る 『おとなとこども、あなたとわたし。』3巻

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前回に引き続き今更かよって更新ですけども、新刊が出てたの気づいてなかった、とても悲しい。1巻2巻が同時発売した時にぶっ刺さったシリーズの第3巻。これにて完結。

2017年上半期 面白かった新作コミックス12作

前回こちらの記事でも紹介しました。 あと今だと電子版1巻がキンドルで無料になってるので読みやすくていいですね。(2017年3月29日までみたいです) おとなとこども、あなたとわたし。(1) 【電子限定特典付き】【期間限定 無料お試し版】 (it COMICS)

テーマは「年の差」。 3つのストーリーが1冊に1話ずつ収録されていくオムニバスで、3巻ではそれぞれが切なさ染み渡る素晴らしいエンディングを迎えていく。 個人的にどの物語も甲乙つけがたいくらいに良い。同じ年の差というテーマでも、どういう関係性なのか、年齢はどれだけ離れているのか、性別は、そこに宿る想いは・・・どれも現実のどこかにありそうなリアルな感触。それでいて非常に魅せられるストーリーテリング

絵のタッチもねぇ、俺は大好き。レディース系なんですけどスッキリとして見やすく、独白がとにかく活きるポエミーな画面づくりが最高です。言葉で伝えたい部分と、行間を読ませようという叙情的な描写のコンボ技で見事にノックアウト。

ざっくりと個別に感想を書いていきます。最終巻なのでネタバレを含むので注意。


『箱の中』 男女/幼馴染/29歳と22歳の7歳差

少女漫画のような設定から落下していく、自己嫌悪で壊れていく男の物語。 未成年に手を出して家族を崩壊させた父親。その血を継いでいることに、そして幼い少女に惹かれる己に絶望し・・・・・・自ら離別を選んだ彼の、その先の話。

育ちゃんが健気に待ち続けてくれて嬉しい。ほんとうにいい娘であり続けたことが救い。主人公はもう自分から破滅に向かっていってしまう人間なので、こういうなんでも受け止めてくれそうな女性の存在はクスリでもあり毒にもなりそうだよなーとも思う。大丈夫かな、また再発しない? でもそういう不安も含めての、また歩みだした2人の結論なのだから読後感はいいですね・・・うん・・・育ちゃんが報われてよかった・・・

自分を自由にさせるために、必要な時間はあまりに多く、大切だった言葉はあまりに簡単で。 そしてそれは大切な女性から与えてもらうものではなく、自分でたどり着かなければならないというのが構造としてロマンチックだなぁと思う。君ともう一度向き合うための、残酷な日々の空白だ。向き合うための禊の儀式。

クライマックスの「あなたが私の中にいたことは変わりない」であっやべーーーこのまま同じ空につながってるENDか!?と焦ったけどきっちりラストで回収してもらえてドキドキしながら読めました。「どこ行こうねぇ、のんちゃん」と語りかける22歳になった育ちゃんの、数年ぶりの再会シーンとは思えない平熱感がたまらないですよ。待ち続けていたのに、あんなに不安にかられていたのに。そんなのどこかに吹き飛んだみたいだ。


『1枚の絵』 男男/亡くなった女性の旦那と講師/77歳と32歳の45歳差

疑似家族ものという風にも捉えられると思う。 亡くなった女性を経てつながった2人の男。へんくつな爺さんと、孤独な青年。 似たもの同士だが年の離れた2人は、生前の女性が残した絵や言葉や思い出を頼りに生きていて、2人ともが不器用なもんだから、見てて面白い。

ところが32歳の青年・蒲田が交通事故にあったことをキッカケに、徐々に縮まりつつあった距離がまた開き出す、ってところからが3巻の話。

死者をどう受け入れるか、かけがえないのない人の不在をどう飲み込めばいいのか。 このシリーズの主役の2人は「死」を共有することでつながった。それによる根本的な切なさがこのシリーズの魅力でした。ありふれていて、当たり前の死という恐怖。 それに打ちのめされながらも少しずつ変わっていく人々。じいさんがだんだんとかわいく見えてくるのは漫画マジックですね。蒲田の過去回想シーンでいろいろと謎が解けたような感覚。マザコンをこじらせた原因はそういうことなんだな。置いてきぼりにされるという幼少期の圧倒的な寂しさ、疎外感がきっちりと確かめられる分、物語の高揚感もグッと上がる。

そしてちかちゃんは屈託なくていい娘だ・・・偏屈な男どもにはこの素直さを少しでも見習うんだぞ。先生とちかちゃんの関係性もひそかにお気に入り。メインとはなっていないけれどここの先生と生徒の関係もいい「年の差」です。


ランナーズ 女女/元同僚/30歳と57歳の27歳差

若作りな美魔女さんも今は昔。菜々子さんも57歳になって落ち着いて、あの職場に努め続けている。エリは退職・結婚・出産を経てもう菜々子さんとの接点はない。

5年の月日が立ち、あらゆる意味で遠くなってしまった2人。けれど2人ともが、あの夜の突然の別れを、いまもはっきりと思い出せる。それだけ無念が残っている。あそこがターニングポイントだったんだ。

おとなとこども 3-1

2シリーズ中もっとも女性誌らしい要素を感じると言うか、女性がどのように生きるかという人生観的な描写も多くて1番メッセージ性が強い。そして個人的にも1番ぐっときました。

間違いなく大切だと思っていた時間だったのに、それを壊してしまったのは私だったのか、あなだっただろうか。それでも「あの人とは合わなかった」と切り捨てて行きていく自分がなんだか悔しい。諦めてしまったは、あなたもわたしもきっと同じだ。

あなたとわたし3-2

すれ違った過去があり、苦悩する今があり、そしてもう一度、日常が交差する。 ・・・・・・いやもう、「こうなってくれ!」と願ったような爽やかなラストシーンに思わず拳を握ってしまいますよ。でも決して明るいだけのエンディングではない。

年相応に人生を積み重ねて、幸せだけを信じられるような日々は過ぎ去った。年月は肉体に、顔のしわに、くたびれた髪に刻み込まれる。 それでも美しいと思えるのは、彼女たちが生きる世界がどんなに美しくないかを知っているからだ。自分の心にだって醜さはどうしようもなく巣食っている。けれどやっぱり、覚悟をきめてもう一度誰かと向き合おうとした彼女たちの思いの結実は、ただただ眩しいのです。

女性ならではと言うか、人として当たり前のネガティブな感情は当然あって、それは否定しない。でも引っくるめて自分の気持ちをポジティブに引き上げてくれる、いい話だなぁ。


そんな感じの作品でした。全3巻、集めやすいしオススメですね。

こういう構成にするのなら、1冊で1シリーズが完結するように収録してほしかったな・・とも思いますが、連載の性質上仕方ないかな。どこかで各主人公たちがほんのすこしクロスオーバーするような番外編とかも見たかったかも。

でもあえて言えばというだけで、しっかりとテーマを持って各エピソードが完結していく良質なオムニバス作品集でした。

作者の糸なつみ先生は現在新作を連載中。 http://comic-it.jp/lineup/pachinko_a/?utm_source=dlvr.it&utm_medium=twitter

こっちも期待大。