「正直どうでもいい?」

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"孤悲"満ちる、切なく静かな雨宿り。『言の葉の庭』 漫画版

言の葉の庭 (アフタヌーンKC)言の葉の庭 (アフタヌーンKC)
(2013/11/22)
本橋 翠

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   どうしてこんなに 雨を待ってしまうんだろう――――・・・ 「"愛"よりも昔、"孤悲(こい)"のものがたり。」 そんなキャッチフレーズが結末を知った後だと一層味わい深い、雨の日に逢瀬を重ねる男女のラブストーリー。「秒速5センチメートル」等で有名な新海誠監督が今年公開したアニメ映画「言の葉の庭」の、コミック版がこの作品です。 原作のいいところをうまく引き出してくれている内容でした!オススメしたい。 アフタヌーンで連載された新海誠コミカライズものはどれも出来がいいのです。「ほしのこえ」といい「秒速5センチメートル」といい。……ん?雲のむこう……?再開は難しいのかなぁ。 ともかく今回も満足のいく出来です。アニメを見た人にはもちろん、原作を知らなくても、この雨降る楽園の物語にしっとりと浸り、心震わすことができるのではないでしょうか。一冊で終わるので読みやすいですよ。 作画を担当したのは本橋翠さん。 調べればわかりますが別名義でも活動している方です。自分ももともとはその別名義の方を読んでいました。 別名義での単行本「よわよわ」は儚げなセンチメンタルと痺れるようなエロスが両立したお気入りの一冊でございました。うむ。 そんなワケで好きな作品×好きな作家さんという完全俺得コミカライズだもあったわけで。 最高じゃないか。 原作アニメ感想が↓です。 最高級の、雨ふる楽園の物語。『言の葉の庭』感想 それでこのコミック版感想は、原作を踏まえて書いています。 原作と漫画を比較してどうこうって書き方が多くなっていますので原作未視聴の方はご了承ください。まぁ見てない人は↓のPVだけでも見てくださいね。どうぞ(押し付け) [youtube https://www.youtube.com/watch?v=udDIkl6z8X0&w=400&h=315]


漫画の内容の大体は原作アニメ通り。かなり忠実な出来で嬉しいです。 その中でこのコミック版の見どころは、効果的なオリジナルシーンの追加です。 この漫画を読んだあとまた原作アニメをBDで見返しましたが(もう十何回目になると思う)、この追加要素がかなり良い…!! 「なるほど上手い」と思ったり、思わずニヤけてしまうような甘い場面も加えられてされており、新しい2人が見ることが出来ました。 言の葉1 たとえばこの場面。自分の夢を語るタカオに、雪野さんが突き放したような一言を発します。 原作だとタカオが夢を語った所で場面が切り替わったので、その後こういうやりとりがされていたという解釈でいいのでしょう。漫画版オリジナル要素としてここがとてもお気に入りです。 一見すると突き離すような雪野さんの冷たい言葉と視線。 けれどそこには、真剣に少年に向き合っている大人としての姿がある。無責任な「へぇ、すごいね、きっとなれるよ」なんて安っぽい言葉よりもっとずっと重たく、少年を夢に向きあわせました。 「こんな言葉程度で折れてちゃだめだよ」というメッセージを感じる、ある種の試練のような、裏返しの愛情に見えます。 この場面に関しては原作よりむしろこの漫画版が好みだったのかもしれない。 「大人」としての雪野さんの役割って、結構この作品の中では少なかったと思うんですよね。少年にとっての神秘というシンボルの存在。だからそこから一歩踏み込んで、雪野さん自身の意思で大人の女性のすごみを見せてくれたのが痺れるんだなぁ…! タカオは少しずつ少しずつ雪野さんに惹かれていきますが 恋慕の決定打となった瞬間があるとすれば、それはこの場面なのかもしれません。 原作から一層、心の奥深いところでの交流がなされたのだ、という実感が湧く、いいオリジナルシーンだったと思います。 他にも細かなオリジナル要素があるのですが…… やっぱりね!雪野さんはとってもかわいいね!!な描写が多くて満足ですよ! この作品の魅力のだいぶ大きい割合を占めているのは雪野さんという本作のヒロインなわけですが、漫画版は雪野さんの追加描写が目立ちます。 上のちょっとこわい雪野さんもこれに含みますが、これだけではない。 年下の男の子にときめいちゃってるお姉さんの赤裸々な内面に触れることができて興奮するのだ。 言の葉2 原作ではここまで雪野さんの心の声を聞くことは出来ませんでした。嬉しいです。 このシーンは雪野さんが足のサイズを測定されたことを受けての恥じらい。 あの時、雪野さんも平常心じゃいられなかったという事に、恋する女性らしさが見えます。朱に染まった横顔がかわいいですわあ…!! 測定シーンもアニメと同様の美しさ、妖しさ、緊張と興奮と静寂が感じられて良かったなぁ……。 それにしても漫画版の雪野さんも、滅茶苦茶かわいくてかわいくて…! オロジナル要素とはまた別に、漫画版の魅力はこういう所でもあります。 原作よりちと幼く見えるのは書き手の違いというものですが、漫画の雪野さんは表情豊かで見ているこっちも幸せになってきますよ! ひとりぼっちの時の安らかな、しかしどこか寂しげな表情も心が潤う。 一方でタカオと一緒にいるときの、感情があっちったりこっちいったりする、人間味のある雪野さんもまた素晴らしい。 言の葉3 言の葉4 とくにこのカラーページはクライマックスの場面であり、印象的。 カラーで見たい表情をカラーで描いてくれるのはニクいなぁ…!!


そしてラストシーンは原作のアニメの、ちょっと先を見せてくれる。 これはイメージソング「言ノ葉」のMVにもあった場面ですね。 映画本編では描かれてなかったので、初めて見る人も多かったのでは。 このMVはオリジナルカットも多数あるファン必見の内容なのですよ。 →隠された聖なるエンディング-『言の葉の庭』イメージソングMVについて 幸せな締めくくりだ、と心から思います。 つよがりのようにタカオへの残酷な優しさのように、作中では雪野さんは「靴がなくても進む練習をしていた」と言います。 「靴がなくても」はタカオを遠ざける方便であり、雪野さんのつよがりと願いのようなものだよな。あなたがいなくなっても生きていけるように。心配しなくても大丈夫だよと云うように。 でも靴がなければ人は上手く歩けません。 裸足で歩めば、すぐにケガをして、痛くて歩けなくなるでしょう。 だからこそこのラストシーンは、これこそ雪野さんのストーリーを締めくくりだ、って思います。タカオにとってもきっと。だってタカオにとっての夢は、彼女のあの姿に結晶しているのだから。 映画本編ではこのシーンを見せない、その後を視聴者に祈らせることで余韻を生んでいました。しかし実際に目にすることで爽快感があることは間違いないですね。 それでも切ない余韻を残していくことも同じく間違いないんですがw そしてコミックス描きおろし「おしえてユキノ先生」!! 幸せそうな雪野さんの和やかな表情に癒やされつつ、オチでニヤニヤするw あとがきページでは12という歳の差を利用して、8歳のタカオと20歳の雪野さんという組み合わせのイラスト。 冷静に考えると12歳差はこれだけ大きいんんだよなぁ。 それと気になったのが雪野さんの名前。 原作では「百香里」ですがこの漫画版では「由香里」となっています。 意図的なものだとすると、原作と漫画では雪野さんのキャラクターが少し違う、という可能性を表しているのかもしれませんね。 「言ノ葉」MVのラストシーンはイメージや空想の映像なのかも?とも思える演出でした。しかしこの漫画版ではズバリそのものを描き出しました。 『約束を果たしたのかどうか』 つまりクライマックスについての解釈の違いが原作と漫画版には存在しており、それを示しているのでは?…なんて妄想。


以上。原作映画をふまえての漫画版の感想でした。 原作が本当に大ッ好きなので、もっとこの漫画の話をせいやと思われたらすいません。 濃密に叙情的なムードが一冊に詰め込まれていて、作画の本橋翠さんと原作の良さが共鳴したような出来栄え。本橋さんの絵もまた可愛いんだコレが。 新海作品は描写がサッサッと流れていく部分が結構あり、こういう形で小説なり漫画なり別のメディアで表現されることで噛み砕きやすくなるのかもしれません。ただでさえ美しい背景の情報量がとんでもないし。 BD再生機を起動しなくても手軽に言の葉の庭の世界観にひたれる。個人的にありがたい一冊です。加えて原作を知らずとも楽しめる、雨が好きになるラブストーリーとしてオススメしたい。 そんなわけでアフタヌーン×新海誠監督作品のタッグに外れなしという個人的なジンクス?が強まりました。 美しい時間と、雨にぬれる緑の匂いと、切ない心模様。 ああ、やっぱりいいなぁ新海誠作品。漫画版も、ぜひ手にとっていただきたい。 『言の葉の庭』漫画版 ・・・・・・・・・・★★★★ オリジナルシーンも追加されているし、出来もいいし、満足の行く一冊でした。 雪野さんの女性らしい表情がそれぞれとても魅力的なので、それ目的でもどうぞ。