「正直どうでもいい?」

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そして彼と彼女は他人になる。『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』6.25・6.50・6.75巻

俺ガイル

やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。」のBD/DVD特典小説の感想です。 6.25巻、6.5巻、6.75巻という扱い。3冊連続した長編小説です。

内容はアニメ最終話の体育祭の裏側とそれに至るエピソードを綴ったもの。 原作6巻と7巻をつなぐところに位置するお話なので、そのとおりの人間関係。 素晴らしく面白かったんですよ!3冊合計で400ページを超える長編で読み応えもばっちり。本作特有の捻くれたほろにがい青春のエッセンスも活きていて内容も大満足…! 6巻で物議を醸した城廻めぐり会長や相模といった女子たちと八幡の関係性を修復、あるいは見つめなおし、再構築されるまでのエピソードであり、これを読んでいるかどうかで6巻ラストの受け取り方も微妙に変わってくるのではないかという程。 わたりんの気合がビシビシと伝わってくる意欲作である! でもだからこそ、個人的にこの3冊の内容にはモニョります。 これちゃんとガガガ文庫で出してほしいんだよな…。 「これほとんど本編ですよね?」と言いたくもなる。原作7.5巻くらいの軽い短篇集ノリの方が、情報の格差は生まれなかったのではと思う。 円盤の特典だと読める人も限られます。面白いからこそちゃんと読みたい人が読めるような体制で出て欲しかった…。実際6.25巻が付属したBD/DVD1巻はややプレミアがついてしまっています。 キャラクターの関係性を見ていく上でも、これは見逃せないと言えるシーンもたくさんあって、尚もったいない! 「これを読んでおかないと本編ストーリーの把握すらできなくなる」というレベルのものではありませんが、見どころの多い内容だったこともあり、モニョりが加速するのであった‥。 と。いろいろ思ってはいてもファンとしては面白いものが読めただけで最高に幸せであり、大金はたいてBDを買って良かったと思いますね。 ガガガ文庫で出していろんな人に読めるようになってほしい」とは繰り返しますが思います。しかし一度特典として出た以上、ガガガ文庫で再出版される可能性は低いし、あったとしても、相当未来。すぐに安く読めるようなってしまったら頑張ってBD/DVDを買った読者の方が浮かばれねぇ、俺含む。 というわけでBD特典小説という業界の商法に悪態をつきつつ、作品には罪はないという考えで感想を書いていきますよ。 今月には原作8巻が出ますけど、この特典小説が読める時期と原作小説の発売時期を見るに最近は「ほぼ月刊・渡航状態になっており、わたりんの過酷な執筆状況が偲ばれる…。

 

 


ネタバレを含みます。

 

  この特典小説シリーズの目玉は、相模の救済。 救済と言っても「なんでだ!相模は6巻であれだけやらかしてただろ!あんなヤツ救われてたら納得いかねぇぞ!」と憤る俺も納得満悦の内容でございました。 つまりは「相模が再起するために必要なものを与える」。それが奉仕部が今回いどむ依頼です。 文化祭での失敗を克服するために、ふたたびイベントの実行委員のリーダーとして相模を頑張らせる。 今度は体育祭。しかし今度は相模が自らの友人に裏切られ、リーダーとして力不足であると恥をかかされるというまたまた悪趣味なフルボッコ展開。 6巻のラストを経ても相模は落ち込んでいただけで、なんら成長はしていないのでした。ある意味安心。そして相模がちゃんと、痛い目を見る。そこから這い上がってくる。その手助けをする奉仕部の物語は、今回も平穏無事では済まないもので。 正直、アニメ最終話の裏側を描くと言われていたので、あの最終話のバカなテンションのエピソードかなと思っていました。 蓋を開けてビックリ。6巻のあの居心地の悪い雰囲気が再び充満する、シリアス全開モードですよ。 つらつらとストーリー展開について書いてしまうのも如何なものなので、注目したシーンをあげていきます。 6.5巻66P、総武高校に入ろうと受験勉強をがんばる小町との会話で「奉仕部だけはやめとけよ。あれ、いつなくなるかわからんし」とこたえる八幡。 自分も雪ノ下も由比ヶ浜も、いつか奉仕部じゃなくなる、卒業まで待たなくてももしかしたらそれまでに何かが起きて、離れ離れになる。 いつか来るさよならを予感している。終わりの瞬間をいつだって予期している。 「立場も、環境も、性格も違う、俺たちの関係はいずれ失われる」 と、悲観的なモノローグは彼らしい。同じ部活にいるだけで、卒業後も関係が続くような仲ではないと、彼は知っている。 守られるべき平穏な楽園が、いつか必ず無くなってしまうということを読者に残酷につきつけるし、この冷ややかな青春の見方こそがこの作品らしいなと思います。 とは言え、「元来、人と人の結びつきは脆いのだ。たぶん俺が思っているよりも、ずっと。」と言葉をつないでいるのが良い。 現実はやさしくないけれど、できればずっと今のままでありたいと願う彼の弱さがここに現れている気がしますね。 というかこの一連の八幡と小町のシーンは、たんなるお兄ちゃんとその妹というリアルな空気が出ていて好印象です。 6.5巻だとあとは由比ヶ浜関連のらぶいイベントは面白かったですね。 男子たちに連絡先を聞かれる由比ヶ浜。そのやりとりに聞き耳たてている八幡のソワソワした感じがかわいいなw ここは八幡が由比ヶ浜との身分差を再確認する場面でもあり、素直になれない八幡にニヤニヤしてしまう。八幡が由比ヶ浜をどう思っているのか、というのはこれまでも触れられているけれど、何度よんでもこの不安定な距離感は最高です…! ドキリとするのが八幡はモノローグでジョークを言っておいて、「どれだけ引いていただいても大丈夫です(P122)」という場面。あえて悪役じみた言動をする八幡なので、由比ヶ浜に向けて「どれだけでも引いてくれても大丈夫」という言葉をここで浮かばせるのは、ちょっとした裏を感じます。 普段から距離を詰めてくる由比ヶ浜に対して戸惑いを見せる八幡。彼としては、もっと冷静になるべく隔たりがほしいのかもしれない。まぁそこに彼の心中に葛藤があるのでしょう。それなりに愛着は持って(しまって)いるから。 エピソードを締めくくる6.75巻はとくに印象深いシーンが多いです。 カゲは薄かったけど川崎さんはほんのり期待させるやりとりにドキマギできてよかったね!(ひどい) 八幡が見せた今回の「斜め上解決方法」は面白かったですね。数には数を。 それに最終的には八幡の思惑通りではない方法で、相模は自分のポジションを勝ち取ってみせる。 参謀たる八幡がその予想を裏切られ、しかしそれで彼は不快にはならない。 いい落とし所。ストンと気持よく納得できるラストでした。 そこに至るまで、いかに相模であろうともさすがに可哀想になっていたので、余計に。たしかにこの話は相模を救済するためのものでありました。 6.5巻までどうやって終わるものだろうかと、この状況に収集は着くのかと思っていましたが、お見事。本当にこの作品はクライマックスにとびきりのものをくれる。 相模が吹っ切れるキッカケが、八幡への対抗心だったのもいい。 「八幡からの慰めも同情もいらないし、ましてや守られるなんて絶対にイヤだ」 とばかりに、八幡が差し伸べた手を払いのけることで、八幡の予期せぬ形で、八幡らが受け持った依頼が完遂される。この流れはお見事…! 相模も八幡も、だれも自分らしさを失わない。ヘタレない。改めて読み返しても鮮やかだ…。 特に相模は今回「救済される」という弱者の立場でありながら、最後の最後で自身のプライドを守りぬく。これが本当に大切なことだったと思います。 相模の成長、変化という意味で見逃せないシーンは他にもある。 6.25巻で「相模がヘコんでて暗くてウザい」とぶっきらぼうにメールを送ってきた三浦と、地獄から這い上がり処世術を少しずつでも理解できてきた相模の、ギクシャクした会話シーン(6.75巻、99P)は、達成感やカタルシスとは言えなくても、胸の中のしこりがスッと溶けていくような心地よさがありました。 そして、最後の1ページ。これですよ。 6巻終了時点で、相模は八幡を「敵」と見て、憎しみを抱いていました。 しかしこの一連の体育祭エピソードの中で、彼と彼女は他人になった。なれた。 適当な挨拶ができる。目は合わさない。極力会話も交わさない。 ただの日常の風景に埋没する存在として。相手を意識しすぎない程度の距離感に戻る。 胸の内になにかを思っても、それを表には出さない、完璧に世界を分かつ他人になる。 なによりもリアルで、でも救いがあるラストだったなぁ。 ディスコミュニケーションが救いになる場面だってあるんだよな。 それに、事実は明かされませんが、相模は八幡をかばったと思われる描写もあります。 これで貸し借りはチャラである、と。 相模というクセモノキャラが抱えたカルマをすべて消化しきりました。 これからも本編で登場するかもしれませんが、少なくとも今回でスッキリと気持ちがいい所にまで結論を持ってこられた。特典小説にしておくのが惜しいくらい、ギッシリ詰まった内容でした。 だからさ!こういうのはもっといろんな人が読める形で世に出てほしいんですが! ということはもう最初に言ったので…はい。 個人的に今回はやや雪ノ下さんの出番が薄かったんですが、本編では相変わらずの活躍なので。今回はよかったね由比ヶ浜&川崎さんということで。 あの相模という少女の、確かな成長が刻まれる瞬間が見られる、という意味で、読む価値は存分にあったものだったと思います。

 

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今月には8巻が出ますねぇ。ついに7巻の、あの続きが読めるぞ! ってことで8巻を読み終えたらまた感想書きたいです。楽しみだ。