「正直どうでもいい?」

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和服少女とカヒーの香りと潮風と。『ちろり』3巻

ちろり 3 (ゲッサン少年サンデーコミックス)ちろり 3 (ゲッサン少年サンデーコミックス)
(2013/02/12)
小山 愛子

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   ありがとう。こんな日に一緒にいてくれて。 ゲッサンにて連載中の「ちろり」3巻が発売しました。感想を。 今回の表紙はカモメと戯れるちろりちゃん。画像だとわかりませんが、キャラクターのところだけ浮き上がっている凸凹な仕様。今回は2巻までよりさらにくっきりと浮かび上がっているように見えました。 あえて紙っぽい質感の表紙でもあります。本そのもののデザインが、「ちろり」の世界観にぴったりだと思います。そういうのもあってお気に入りの単行本でありシリーズです。 ヒーリング系コミックと言えるようなそういう雰囲気。 なんでもない日常の出来事を、ゆったりと、しかし情感豊かに描きあげていく。 うねる明治時代の賑やかさ。すぐに見れなくなってしまうような、風化していってしまうような、今その時にしかない一瞬一瞬。この作品に静かに浸っていると、たまにすごく寂しくロマンティックな気持ちになります。うわぁ・・・なに俺・・・。 そこは明治の港町。優しさと季節の風を感じる癒し漫画『ちろり』1巻 ゆるやかに過ぎさる明治の1ページ。『ちろり』2巻


それでは3巻の内容をさくっと。 やっぱり今回も大きな事故も事件もなく、ま~~~ったりと日々は過ぎていくのです。 でもその緩やかな時間の流れを、ほっとするコーヒーとともに味わいたい。そんな漫画。 あと和服がたまらん。 季節をとても大切にしているのもポイント。季節ごとの港町の雰囲気とか、気にしてみるとすごくしっかり作りこまれているなと思います。 3巻は春から初夏にかけてかな。雪はもう溶けて、ゆっくり夏に向けて温まっていく時期。花見をしたり、どしゃぶりにガッカリしたり、そんな何気ないシーンがなぜかくっきり頭に焼き付きますね。 とにかくこの雰囲気が好きです。優しくて懐かしくて。 ちろり31 1巻2巻まででこの作品について思うことは大体書いたので 毎回感想を書こうと思うと、結構どう書いたもんだか困ります。 でもやっぱり3巻を読んでばっちり癒してもらえた。やっぱり好きなのだ。 好きなエピソードは「桜東風(さくらごち)」。 春のつよい風に吹かれながら、ちろりとマダムがお花見にいくお話です。季節感が強くていい。桜の舞う様子も美しい。 そして花見に対しての2つの見方が描かれます。それはカップの中に桜の花びらが落ちて、それを笑顔で楽しむか、カップの中の紅茶ごと捨ててしまうか、あのシーンに強く現れていましたね。 西洋風=風情がない、というのではなく、和式と洋式の価値観がうまく混ざり会えていない。けれど共にある。調和しきてていないアンバランスな風景が面白い。 そういうのは明治時代らしい出来事かもなぁと思ったりもします。しかしまぁ、日本人だもの、風情をなくしちゃいけないよね。 まぁあのお嬢さんは西洋式を気取っているからああいうことをしてしまったというより、日本人らしい生き方への反発としてひねくれているだけでしょう。この作品は洋式を悪く描くものではない。 あと第20話「ひよこ」もいいな。病気になってしまったマダム。ちろりは彼女の看病をしつつ、寂しい想いを抱えているというエピソード。 楽しいこと、素敵なことはマダムと共有したいらしいちろりちゃんがいじらしくてすっごいかわいいお話だと思いますわ・・・。「いいことありませんように」ってお願いしているんだもの。ちろりがマダムをどれだけ好きかがわかる! 最後、空にかかる大きな虹の晴れやかさに、こちらもにっこりしてしまいます。 でもこういうのを見ると、マダムが何かの拍子でいなくなってしまったら彼女はどうなるんだろう・・・という、ちろりの危うさを見たような気もしますね。 そんな悲劇は起きないとは思いつつ。 ちろり32 マダムを心配していたちろりちゃんの不安がとけたときの表情。かわいい・・・。 あと巻末にはプロトタイプの「ちろり」読み切り版が特別収録。 今とはちょっとだけ設定も違いますが、雰囲気は全く同じ。 ちろりが、ちょっとだけ人の心を楽しく、安らかにしてくれる。


そんな「ちろり」3巻でした。 好きな漫画なんですが、なんとなく好きって感じなので、なかなか感想を言葉にしづらいです。風情があるねえ、ロマンティックだねえ、とか。 詳しくは書けないけれど、「ああ、いいなぁ、こういうの」みたいなふわっとした曖昧な感覚。そういうのは曖昧なままにしておいた方が、わりといいものかもしれない。 2巻の後半くらいから、絵も変わってきましたね。線の感じが。 連載当初はすごくしなやかなラインでしたけど、最近はわりと線太めでがっしりしてきた印象。色々感触を探っているんですかね。個人的には初期絵が好きですが、今の絵柄は明治時代が引きずる泥臭さをちょっと匂わせているタッチに思います。これはこれで。 あとナタリーさんでがっつり特集記事組まれてますね。こういうのは嬉しい。 →着物と珈琲にありったけの愛を (コミックナタリー) ゲッサン本誌でも触れられたことありますが、小山愛子さんマジで普段着が和服なのかw 前半とか完全に小山さんによる和服萌え語り状態ですが、そこに「ちろり」のルーツがありますよね!「ちろり」好きとしてかなり楽しめたのでこちらもチェックしてみては。 爽やかで優雅で香り高くて、居心地がいい。 ちょとずつ胸に温かみが染み込んでいくような、粋な世界がそっと花開いているというか。この世界そのものだよな、「ちろり」ってタイトル。4巻も楽しみ。 『ちろり』3巻 ・・・・・・・・・★★★★ ささやかだからこそ、世界がまるごと愛おしくなるような漫画。和服好きの癒し。