「正直どうでもいい?」

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わたしを砕く、あなたのすべて。『茜色コンフィチュール』

茜色コンフィチュール (百合姫コミックス)茜色コンフィチュール (百合姫コミックス)
(2012/09/18)
黒霧 操

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   この熱で燃え尽きてしまいたい 百合姫コミックス「茜色コンフィチュール」の感想を。 黒霧操さんは前作「水色エーテル」で知ったのですが、個人的にツボな百合の紡ぎ手さん。 今回はまずオビ文が素晴らしいんですよ。「わたしを砕く、あなたのすべて。」というもの。すごく好き。震える。 印象的なフレーズに彩られたこの単行本ですが、内容もいいものでした。 黒霧さんの前作「水色エーテル」。これがまた何度も泣きそうにさせられた、破壊力の高い作品集でした。とても心に残って繰り返し読んでいたり。

水色エーテル (IDコミックス 百合姫コミックス)水色エーテル (IDコミックス 百合姫コミックス)
(2011/07/16)
黒霧 操

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収録作品の多くが悲恋・失恋モノで、一冊トータルの切なさはもはや凶暴なほど。 特に「この胸の花」「月の欠片、刹那と永遠」「春待メランコリィ」あたりは絶品。 ただ悲しいだけではなく、その見せ方の上手さに魅了されたなぁ。 女の子の隠された想い・・・それが綺麗でもそうでなくても、それを明かして そんなわけで楽しみにしていた2冊目の作品集がこの「茜色コンフィチュール」。 コンフィチュールというのはフランス語でジャムのことを言うんだとか。 意味がわかるようなわからないような、なんとも不思議で素敵なタイトル。なんとなく雰囲気はそれらしいのをかzんじるというか。ストレートじゃないぶん想像がふくらみます。 それでは短編集ということで、個別にさらりと感想を。


●金星のカノジョ 最初の作品は、星にたとえてその輝きや遠さを描いた作品。テーマがロマンティックですな。 単行本全体で見れば、この作品はだいぶ幸せなお話だったと思います。 とは言え秘めたる黒い感情がにじんできて、決して明るいばかりのストーリーではない。 どうしようもない不安は消えずずっと胸にあって、くじけそうになるのを耐えている。 それでも最後に一歩を踏みだした主人公は、砕け散ろうと燃え尽きようと、覚悟を決めて戦いにいったわけなので、このコミックスの中ではかなり強さを持っている印象を受けます。 「準備不足の大気圏突入は、砕け散るのがお約束」 「この熱で燃え尽きてしまいたい」 クライマックスのこれらモノローグはゾクゾクきましたねー!卑屈なんだか勇ましいんだか! 片思いから駆け出して恋する相手のもとへ。「準備不足」と自分から言っているように、終盤の性急さもまた必死さが表れていて素敵です。 捻くれているけど、実はまっすぐに恋できてるあたりもちょっと珍しいかもしれない。


●零れ桜 2作目は大正ロマン的な和風百合。ここらへんからエンジンかかってきて正のエネルギーがだんだんとなくなってくる。じめっとしたムード。ほんのりダークでじわじわ痛みが広がってくる感覚。これだ・・・これだよ!憂いある2人の雰囲気は切なさたっぷり。 大正ロマンということで、着物キャラがちょいと新鮮でもあります。 2人の着物のちがう模様が1つに重なりあうシーンが意味深・・・というか明らかにそういう性行為のイメージ映像なんですけど、オシャレな演出でお気に入り。 なんといってもこのラスト、いいですねえ。絶妙に気持ち悪い。 ひどいことをされたと分かっている。相手の卑怯を恨みたい気持ちもあるだろう。 それでも好きでい続けてしまうダメな自分。だって、彼女のそんなズルさがホンの少し嬉しかったりもするから。自分を好きにさせてやろう、忘れさせないように、心に残し続けてやろう―――残酷な独占欲を浴びることは、辛いけどそれはそれで割り切ってしまえば、幸せなのか、な。でもこれ切なすぎる。 うーん紐解いていくとこの作品の感情の動きは、けっこうエグいものだと思うんだけど、それをさらりと悲恋の儚げなムードに仕込んでくるのは面白いです。「ヒドい女」だ。


●in the closet 変態だ―――――!!(AA略)って感じの第一印象。うん、これは気持ち悪いぞw うひょあああーと妙な興奮が得られましたが、ニヤニヤできるだけではない。 気持ち悪いんだけどそれを自覚していて、だからこそ結構アレなラストを迎える。 少女同士の甘やかな関係の中に、しっかりとビターな味わいを生かしていく作品。 少女趣味の象徴みたいなお人形遊び。それをこじらせてしまい、「お人形になりたい」「あの娘をお人形みたいに好きにしたい」とそんな風に暴走していく女の子2人。 「誰よりも大切にされたい」→「私をお人形さんにして!」とシフトして思わずニヤッ・・・と。 しかし横たわるのは気持ちの微妙なズレ。 茜色2 テーマのいやらしさや妄想シーンの淫靡なムードからして、かなりドキドキ。 見ちゃいけない、知っちゃいけないものに触れている感じ。個人的にはこういう感覚が百合漫画を味わう醍醐味の1つです。かすかに不気味でもある、歪んだ恋。 締め方もよかった。こうやって静かに想いを閉じ込めていく、報われなさ。 なんだかんだでこういう悲恋モノって好きなのかもな。美しいものも、こういうのも。


●シガレット≠チョコレート 箸休め的にゆるやかな空気が心地いい大学生百合。 2つ連続で、個人的にはマニアックで刺激的なのが来ていたのでいいリラックス。 パンチ不足・・・と言えなくもないけど、これはこれで好きだなぁ。 タバコの匂いと一緒に、ぼやけてはいるけど確かな切なさがふわりと漂ってくる。 茜色3 きっと普通ではない恋をしているのだから、と一歩引いている主人公。 癒しではあるけど傷が和らぐものではなく、傷痕にそっと触れてくるだけのような感じ。結局痛いじゃんみたいな。けれどそういうのがいいよね。それ求めてこの作品を読んでいる面は間違いなくあるので。 でもこの作品の後日談が、巻末にある書き下ろし「茜色プロムナード」。 こちらは文句なしに甘くて甘くて甘い。この単行本においては周りとのギャップでそれくらいに感じましたよw おかげでコミックスとして見たときの読後感はよかった!


●溺れる金魚 変態だ―――!!2度目。これも強烈だなぁ。ある意味ストレートなんだけど。 主人公はおとなしい女の子。もう1人のメインキャラは主人公を見下す女の子。 心を痛めつけられるのは当然なのに、。それでも主人公はその娘の近くにい続ける。 しかもまぁその相手の娘というのが典型的な「新しい彼氏ほしー次の彼氏ほしー」系恋愛脳女子高生なので、望み薄だわなぁという感じ。 ところが読みすすめてみれば、おやおや。これはやはり主人公が面白い。 「傷ついても傍にいたい ううん 傷つくから傍にいたいの」 茜色1 いい笑顔ですね・・・。まぁつまり、そういう繋がりが欲しい人。 どんなカタチが幸せな人間関係かは人それぞれだけど、この作品のそれは歪んでいるなぁ。 これは恋というか、おかしな風に自己完結しちゃってる。彼女の傍にいることが彼女の自慰にもなってる感じの。虐げられる事の冷たい痛みに取り付かれてる。依存して逃れなくなって、満足できなくなって。 のめり込んで理解を示すことはできませんけど、これもまた、不思議な世界をのぞき見た気持ち。そういうのもあるかぁ・・・。 うん、作者も気持ち悪いと思ってもらえれば本望とか書いていましたが、これは気持ち悪いな・・・それが面白い!


そんな感じの作品が詰まった単行本。 前作「水色エーテル」と比べると、全体としてはやや甘みが増したかな。 あちらが悲恋モノオンパレードで、傷つく少女たちを様々な角度から描いていく感じだったので。 しかし本作が完全に幸せかと言うとそうでもなく、やっぱり悲恋は多いな・・・! 加えて病的というか、静かに狂気に浸っているムードの作品が目立ちます。 儚げなんだけどすこし毒々しい感覚が素敵だなぁ。すこし、どころじゃないかも。 キラキラもしてるだけど、落ち着きを保ったままゆるやかな空気が漂っている様子もいい。 個人的にはだいぶ好きな百合作家さんなんだけど、がっつりこちらの胸をえぐってきます。切ない恋を味わいたい人にはおすすめしたいけど、ほわほわしたのが好きならちょっとキツそうだ・・・。実際自分の心も結構ボロボロですし、むしろ切ないだけじゃないし・・・。 心が苦しくなる作品ばかりでもないので、バランスはいい一冊だと思います。 『茜色コンフィチュール』 ・・・・・・・・・★★★★ いたたたたた。つらい。でも心に残る物語たち。万華鏡を覗いたみたいな少女たちの世界。