「正直どうでもいい?」

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死んでからできることって何があるかな。『まじめな時間』2巻

<img src="http://ecx.images-amazon.com/images/I/51u9wEDIo0L.jpg" alt="まじめな時間(2) (アフタヌーンKC)" style="border:none;" />まじめな時間(2) (アフタヌーンKC)
(2012/09/21)
清家 雪子

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   まだね 乗り越えられる気はしない 一生無理なんだろうけど    まぁ……なんとかやっていくわ 清家雪子先生の「まじめな時間」2巻が発売されているので感想を。 全2巻。あらかじめこの構成が決まっていたようで、本当にスマートに、柔らかな着地を見せてくれました。この終わり方は自分はすごくいいものだと思います。 「死」というヘヴィーなテーマを、不思議と軽快なタッチで魅せてくれた作品。 重くなりすぎず、適度に力の抜けたムード。けれど大事なことからは逃げない。 「死」というテーマから人間の生き方を描く感動作です。ボロボロ泣きましたからね・・・! 2巻の表紙はのびのびと身体を伸ばし、満足げな一紗が印象的です。 1巻の時は丸く縮こまって、泣きそうな顔していましたね。 夕暮れ時というのも、人生の終わり際を示しているのかなと思ったり。 1巻→突然死んじゃったらどうすればいい?『まじめな時間』1巻


死をドラマティックに飾り過ぎない、この作品の姿勢がとても好きでした。 最後まで読み終えたことで、そのことをしみじみと感じます。 ドラマティックもなにも主人公が死んで幽霊デビューするところから始まるんですけどね。 死とどう向き合うか。それを言葉と、言葉だけじゃ足りないメッセージ性で、しかと描きってくれたと思います。 死を特別なものだと扱わない。そこにじんわりと叙情的な魅力があります。 最初はとまどうけれど、徐々に自身の死を受け止めていく幽霊たち。 幽霊が主人公の作品・・・ということでイメージされるかもしれない、絶望に塞ぎこむようなダークな雰囲気はこれっぽっちもない。とても自然でリラックスしています。 不慮の死を遂げても、こんな何でもないように居られるものなんだな。いいものかもしれない。 ストーリーの話。 1巻の時点では、まだ気持ちの整理ができていなかった一紗。しかし死んでしまった今だからこそ、やりたいこと、やらなきゃ気がすまないことができます。 一紗の死後、ずっと元気がなく倒れてしまった母親を、助けてあげること。 でもそうするためには、幽霊には難しい、現実への干渉を果たさなくちゃならない。 霊感を持った女の子・蘭子を介してがんばる一紗。周囲の幽霊たちもおちゃめに一紗をサポートしていきます。この幽霊たちのノリの良さや明るさが、この作品の雰囲気の良さに一役買っていましたね。 まじめ23 そして2巻の、いやこのシリーズ屈指の盛り上がりどころがここ。 葬式のときにも呆然としたまま涙も流せなかった母親。 娘の一紗の思い出話をぽつぽつとしながら、改めて彼女が一紗と向き合うシーンです。 次から次への溢れる一紗との思い出話。どんなに話しても尽きない。 「まだまだあるの。たくさんあるの。あの子のいいところ」 からの一連のセリフにはほんとに、びっくりするくらい涙が溢れてきて困った。 今年読んだ漫画で1番泣いたかも知れない・・・。これが涙腺決壊かという勢いで・・・。 アフタヌーンで読んだときに泣いて、単行本で読んで泣いた。感想書くためにまた読んだらまた泣いた。 彼女が涙を流し始めたら、こちらももう限界でした。 ああ・・・いまやっと、一紗の死が母親の胸に届いたのだ、と。 あまりの痛みに感覚がマヒしてしまった彼女の心が、動きだした。 しかしそれは改めて娘の喪失という、大きすぎる哀しみと向き合うことでもあり・・・。 まじめ24 読んでるこちらが切なすぎて辛すぎて。でも、このシーンが見たかったんだ。 本当に素晴らしい。名シーンだと思います。文句なし。


一紗たちだけではなく、ほかの幽霊たちのドラマもさらりと描かれていきます。そしてこれがこの作品の、もう1つの好きなところです。 みんながどんな人生を歩んでいたのか。どんな死を迎えたのか。 1番胸が痛い例をだすと、児童虐待を受け続け、あげく焼死した子供達がいます。 けれど大半の幽霊たちの心が穏やかで、まったりと現実を見守っている。 それは幽霊になってしまったことによる諦めの気持ちもありますが・・・けれどこの心安らぐ「ロスタイム」な時間も、なかなか素敵じゃないかと思えました。 なんとなくでも恨みつらみを溶かして、心を丸くしていける時間です。 そして「死後」に対しての幽霊たちのスタンス。これもまた面白いし、染みます。

僕が死んだのも、みんなが死んだのも 幸せだったのか不幸だったのかも、きっと大きな意味はないことで… みんなやがて流れて、なくなっちゃうんだ それは悲しいことでも苦しいことでもなくて さみしいけど、そんなに悪くないよ

この言葉がとても心に残ります。忘れられていくこと。消えていくこと。それら全てを自然なことだと受け止めていく。ちょっとさみしいけど、仕方ないよね、と。その「仕方ないよね」がどれだけ、辛くて大切か。 「さみしいけど、そんなに悪くないよ」の達観した感じが悲しくもある。けれど同時に、そんな素直に自分と世界を見つめられる心の平穏が得られたら、とも思う。 死んだからこそ「生」への漠然とした理解も深まる。一紗がドキッとすることを言います。 145Pあたりの「みんなの中で生きていたから私が生きてるって感覚があったのかも」と思い返す一紗のシーンも、さらりと流れていきそうな中で鋭いこと言っているなと感じました。 「人は二度死ぬ」・・・みたいな有名なセリフがありますが、改めてその意味を噛み締める。 なんだろう。やっぱり不思議だな。いろんな感情が込められた作品で、いろんな作品が胸の中でぐるぐると回って広がっていく。そんな作品です。一言じゃ感想を言い表せない。 柔らかな雰囲気の中で、するすると作品に浸っていけるんですけど 気づけば心がすごくナイーヴになっていて、なんてことないシーンでまで涙ぐんでしまう。 カバー裏、なにげなく見てたら、一紗と大久保さんが仲良さそうで笑いました。 あんたら楽しそうだな、安心したよ、幽霊たちw


で、このラスト。あれ、そこで終わるんだ、というのが最初の印象でした。 けれど何度か読み返すうちに、やや中途半端に思えたこのラストも、すごくいいものに感じられるようになってきた。死んだって人は世界を変えられる。人を変えられる。自分を変えられる。 ずっとずっと時間は流れつづけて、1人1人は消えていくけれど。それが当然のことだから。 インパクトがあるラストではありませんが、その意味をじっくり噛み締めることができる、味わい深いエンディングだったと思います。 本編終了後には清家さんの四季賞受賞作「狐陋」も収録されています。 こちらも面白かった。今とは絵柄も結構ちがいますが、人間の弱い部分を深く描いていくような、豊かな人間描写力はすでに感じられます。全体的にドライな読み心地も新鮮です。 この作家さんの描く人間はいいな。次の作品も楽しみにしたいです。 それでは最後に。「まじめな時間」、名作だと思います。 全2巻と集めやすく、内容については↑で書いてきましたが、自分はドハマり。 誰が読んでも何かを得られるんじゃないかなと思います。死という普遍性があるテーマを見事に描いています。この浮遊感。感情を気持ちよく揺さぶってくれる感覚。一読の価値アリ。 まじめ21 『まじめな時間』2巻 ・・・・・・・・・★★★★★ いつか受け止めなきゃいけない現実。「死」って、こういうものなのかな。 しみじみと、いい漫画だったなぁって満足できる作品でした。集めやすいし、ぜひ。