「正直どうでもいい?」

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ほんとは寂しがりやのあなたに届くように。『星屑クライベイビー』

星屑クライベイビー (マーガレットコミックス)星屑クライベイビー (マーガレットコミックス)
(2012/09/25)
渡辺 カナ

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   もしくは たったひとりのキミの所へ。 表紙買い。そして成功。渡辺カナさんの短編集「星屑クライベイビー」の感想です。 ふら~っと売り場をうろついていたら、ノーチェックだったこの単行本を発見。 本当にきれいな表紙で、ついつい手にとってしまいました。内容もばっちり面白かった。表紙買いしてよかったです。収録された4作、どれも気に入りました。 どれも学校を舞台にした青春漫画ですが、それぞれに違った味わいがあります。


●星屑クライベイビー コミックスの表題作。一冊読み終えても、この作品が1番好きでした。 あとがきで作者も「すごくかきたかった話なので、かけて本当によかった」としていました。月並みですが、たしかにそれだけの情熱が込められているのが感じ取れたかもしれません。 とにかく人あたりのいい、好かれて当然の完璧な転校生の女の子、内藤。 彼女を「宇宙人」として観察をする主人公、そら。 小説家をめざす中で「いいネタを見つけた!」と勝手に内藤さんのまわりをうろつきだすそら君です。しかしひょんなことから内藤さんとの直接的な関わりを持ち、不思議なかたちで2人の絆が深まっていきます。 ヒロインの内藤さんに関しては、もっと描写が欲しかったとは思いました。 主人公の一人称視点のため、彼女の内面的なものが見えてくる場面が少なかったかも。 進行に問題はないですが、もっとじっくり浸るために、もっと描写が欲しかったな。 しかし主人公の少年、そら君には文句なしに素晴らしい演出がされています! 主人公が魅力的に描かれているというのはとても重要。最初こそ、ただひょうきんな男の子かと思いましたが、夢に向かう中での彼の苦悩の見せ方がとてもよかったのです。 宇宙が大好きだった。大きくなって背が伸びれば、もっと近づけると思っていた。 けれど夢だった宇宙飛行士は、背が大きくなるほどに遠くなっていく。 ただ漠然と夢を思い描いているだけじゃ、どうにもならない現実を知る。 自分じゃどうせ叶わない夢だと諦める。けれどそこから違った夢を見つけることができた。 星屑1 ここ!「爆発した。俺の体は宇宙空間に投げ出され、~」の一連の流れ! このシーンのインパクトがすごくて、一気に物語の呑まれた感じがあります。 「夢中になる」という感覚が詰めこまれているシーン。 ここからこの主人公を好きになって、クライマックスまで走ります。ちょっと臆病なそら君だけど、おっかなびっくりでも伝えたい言葉を選んで放つ。 自然な流れの中でアツい物語になっているのが素敵。自分なりのやり方で、もう一度宇宙に近づくんだ、と。ひたむきな気持ちで心を支え、行動に起こす主人公。応援したくなります。 これは恋愛漫画ではないですね。この先の2人がどんな関係になるかはわからないけれど、このストーリーで描かれいるのは、友情かなと思う。必死に、離れていきそうな心をつなぎとめたいと思う、ぬくもりだ。そして文章を書くのが好きな人に向けて「あなたの文章が一番素敵だと思ったの」は殺し文句だわなと感じたのであった。 「未来からのメッセージじゃないかな」という、最後の先生の言葉が染みます。 大人になれば君もわかるよ、とも言う。ああなるほど。主人公の最後のモノローグ「何かを捨て、諦めなければいけなかった人達に」がここに繋がるのかな。誰かのために書かれた物語は、きっと人の心を動かすのだ。出来るなら、胸おどるようなファンタジー。それを君に。


デイ・ドリーム・ビリーバー ずっと夢ーを見てー、幸せーだったなー。ってアレでしょうか。そんなタイトルの短編。 しょっぱなから主人公が報われることがあるのか、不安になる出だし。 しかしこれがもう染みる染みる。一筋縄ではいかない片思いと、その思い出の物語。 愛とは、その人に幸せになって欲しいと願う気持ち。 そんな言葉がそのままテーマとなっているような作品でした。 主人公はとてもかわいらしく、おまけに献身的で、どうか報われて欲しかったけれどなぁ。「私のこと好きになってほしいって思うんだ。わがままで自分勝手で、ほんとうにごめんなさい…」とかどうしようかと。それが責められてしまったらおしまいだ。幸せになって欲しいと願うのが愛だとしても、それを叶えてあげられる相手に自分が選ばれれば、そりゃ嬉しいんだけど。 星屑2 とは言え悲劇のヒロインに終わっておらず、きちんとした未来が描かれているのは、複雑ながらもどこか清々しい不思議な読後感。しかし、くっそ切ない。失恋がきちんと描かれている。 でも最後に、がんばったごほうびをもぎ取っていく、少女のしたたかさが微笑ましくもあり…! 「星屑クライベイビー」と一緒に、終わり方が印象に残る作品です。


●ハロー・グッドバイ 前2作がどちらかと言えばビターな味わいでしたが、こちらは甘めの短編。 人として憧れるあまりにその人の恋を応援するばかりの主人公、若菜が主人公。 前の「デイ・ドリーム・ビリーバー」にも通ずる、ちょっと自己犠牲はいったヒロイン像。そのため続けてまさか・・・と思ったものの、いやぁいい!爽やかでキュンとくる、遠回りな恋物語。ニヤニヤできました。 キヨくんのキャラクターもいいなぁ。嫌みのないカッコいい男だ。とは言え、ラストで傷心のままなぁなぁで決断しちゃった感じがあって、大丈夫かよと思いもしたけれどw まぁそこはここぞというところで勝負に出た(偶然ひらめいた形だけど)ヒロインの作戦勝ちということで! 星屑3 そしてタイトル「ハロー・グッドバイ」へのつなぎも秀逸。そう使うかと。 甘酸っぱく、青春ムードをおもいっきり感じ取れた漫画でした。 そしてふむう主人公がかわいい!!いいツインテールだ!


●リリィは水の上。 人の目が気になるあまり、本当の自分をうまく出すことができない百合乃。空気をよむことに長けており、だからこそ人には好かれやすい。けれど彼女の深いところを知っている人はいない。 しかしある日、いっこ下の男の子に告白されて、彼女の日常は一変するのでした。 これはまっすぐな恋愛漫画だなぁ。コンパクトにまとまっていて、単行本のラストとしてさらりと読み終えていい気持ちを残してくれる感じ。 タイトル通り、主人公が水たまりを駆け抜けるシーンがお気に入りです。 目立つことが嫌いなのに、そうしてまで駆け寄りたかったんだという。行動で示される感情の高ぶりをロマンチックに演出しています。 ちょっと不思議な形ですけど、百合乃さんが意図しないうちに、この男の子の前では素直な自分を出せている。こういうのを見ると、お似合いじゃないかと思ったりする。 そしてエンディングのオマケ漫画がとても微笑ましいです。これも要チェック。


そんな短編集「星屑クライベイビー」でした。 比較的にながめに感想を書いたことからもわかると思いますが、表題作が飛び抜けて好き。 しかし他3作も気に入っています。少女漫画的王道もあれば、ちょっとひねりのきいたものや、胸を打つシリアスな恋物語まで揃っています。1冊中で印象が似た話がないのはいい。 絵柄もポップで読みやすいです。とってもかわいい。しかしイザというときには力強く魅せる絵を置いてくる。表題作ではこれがとてもよかった。 カラーイラストもいちいち綺麗なんだ。コミックスでモノクロになってしまっているけど、ぜひカラーで見たかった・・・。オビに小さくカラーページが載っていたので眺めています・・・。 キラキラとした青春の甘さ、まぶしさ。と同時に胸を疼かせるリリカルな切なさがある。 学生時代に感じる漠然とした将来への不安や、人間関係の悩みもリアルな形で取り込まれています。 しかしどれもが美しい物語。ニヤニヤできて、しっとりできて、いい1冊でした。 『星屑クライベイビー』 ・・・・・・・・・★★★★ 甘酸っぱい4作品。美しい表紙に惹かれたらぜひ。新連載があるようなので、そちらも期待。