「正直どうでもいい?」

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ゆるやかに過ぎさる明治の1ページ。『ちろり』2巻

ちろり 2 (ゲッサン少年サンデーコミックス)ちろり 2 (ゲッサン少年サンデーコミックス)
(2012/08/10)
小山 愛子

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   ゆっくり変わってくんだ。 ゲッサンにて連載中の「ちろり」2巻が出ました。 文明開化を迎え、ゆっくりと変わっていく明治日本を描いた作品。 まったりと穏やかに、四季折々の風景の中で暮らす港町の人々。マダムといっしょに喫茶店で働く女の子、ちろりが主人公です。 1巻は何度も読み返しましたねえ。本当に雰囲気のいい作品で。さわやかで情感豊か。 そこは明治の港町。優しさと季節の風を感じる癒し漫画『ちろり』1巻


気に入ったエピソードを書いていく形で。とはいえ二巻収録話も、どれもこれも好きだな。 ストーリーと呼べる筋はほとんどなく、日常の断片的なワンシーンを描き出していく。 2巻は冬から初夏にかけて季節がめぐります。 日常にあるちょっとした楽しみ、驚き、物寂しさ・・・ささやかに感じさせてくれる。小さな小さな、けれど愛しいエピソードたち。「ちろり」という名前はイメージどおりのもの。 第8話「初景色」は元旦。 話してはいけない行事のなか、互いにしゃべりたいのを我慢して笑い合うマダムとちろり。 めずらしく店の外に出ている、オフの2人の様子が描かれていますね。 1年の始まりにしてこんなかわいらしい。楽しい一年になりそうじゃないですか。 ところで「景色」という言葉はじっくり見てみるとすごく綺麗な言葉だと思う。(唐突) ちろり22 第9話「冬眠る」では万全の心遣いをみせるちろりちゃんの静かな奮闘が。 ここまでくればもう、俺としてはちろりとマダムの年の差百合的な脳が回りだすわけですが・・・。でもこの作品ではあんまりそういう恋愛的な妄想はこないんですよね。読んでるこちらも、心が落ち着いている。 この作品が持つ落ち着きの良さは次の第10話にも現れている。 雪積もる早朝に、ちろりが赤い実をみつけて見とれる、というシンプルな話。 でもちょっとした出来事で心が浮き立つ流れが、まさしくこの作品らしくて好き。 キラキラしたものだったり、ちょっとしんみりしたり、ねぼけていたり・・・いろんな表情が見られるのも楽しいですね。お店にいるときはにこやかを心がけている様子の彼女だけれども、1人きりの時には読者的には結構新鮮な様子を見せてくれる。 ストーリーらしいものはない、と言いましたが続きものエピソードはあるのです。ちろりを気にしている少年が再登場する第10話はこの作品では珍しい、ラブコメの香り漂うお話。 いっぱいいっぱいになっている男の子と、何も知らず涼やかな表情のままの女の子。 そんな微笑ましい一幕が印象的ですが、海の描写も心に残っています。 ちろり21 穏やかな凪の時間。 背景描写がとてつもなくうまい!というわけではないんですが(別に失礼な意味じゃない) 風景を映し出すタイミングのうまさが光る。ハッとさせられるんですよ。 この一瞬の風景が、とても大切なものに思わせてくれる。作品にうまく感情を投入できている感じがして、一体感がきもちよかったです。 この少年はまた登場してきそうですね。ちろりとの関係も楽しみ。 明治という時代を一番に映し出していたのは、第13話「時代」でした。 お使いにでたけれどまよってしまったちろりを描きつつ、明治の街のにぎやかさを見せてくれます。現代からは姿を消した風景がいくつも登場し、ノスタルジックな気分に。 旧来の日本文化を渡来した西洋文化が交じり合う明治の港町。 全てはゆっくりと変わっていくんだ、というメッセージは、作品の背景がいかされています。読者をしんみりさせますよね。昔すぎず、最近すぎず・・・なバランスが明治だとか大正だとかの時代を魅力的に感じさせている気がします。ロマンあるよね。


そういえば1巻のころと比べると、ちょっとずつ絵も変化してきていますね。 なんとなく、艶やかさよりどことない土っぽさを感じられるものに。 個人的には前のものが好きだったかな。でも今も美しいだけじゃない力強さのようなものが湛えられているようでいいものです。 2巻になってメインキャラたちの掘り下げも行われてきました。ちろりもマダムも、よりかわいらしくなってきたと思いますよ!とくにマダムは2巻の書き下ろしが見逃せない。 ちろり23[ ムリはしちゃいけない・・・でも大人な女性がふと見せる子供っぽさって、ときめく! ちろりの髪型をこっそり真似てみるっていうのも・・・うん、いいよね! おだやかーにまったりと歩んでいく日常。 こういう癒し系なタイトルは雰囲気のよさが大切だと思いますが、自分はこの作品のはとても好み。ふわっとやすらぎますし、時々きゅっと切なくなることもあります。 明治という時代の空気をしっとり感じさせてくれる。そのうえ軽やかで読みやすい。 風景にしろ人物にしろ、その表情をうまく捉えている作品です。 前にも書いていましたが、1話1話、1コマ1コマを味わううまみがありますね。 今後もゆったりと続いて楽しませて欲しいシリーズです。 『ちろり』2巻 ・・・・・・・・・★★★★ やっぱり気持ちのいい漫画だ。香る潮風とか寒い雪の朝とか、想像しながら読んでます。