「正直どうでもいい?」

漫画 音楽 娯楽

鋭さを増す少女たちの闘争本能!『鉄風』5巻

鉄風(5) (アフタヌーンKC)鉄風(5) (アフタヌーンKC)
(2012/05/07)
太田 モアレ

商品詳細を見る

   キツイです でも…いいですねコレ……嬉しい…… 待ちに待ってたと言える「鉄風」5巻が発売されています。 前々からそのタイトルだけは知ってて、NumberGirlの「鉄風鋭くなって」みたいなタイトルの漫画ね、とか非常にどうでもいいことを考えてたわけですが、4巻出ていたタイミングで一気読みしたら・・・なんだこれはと。安直な言い方しかできなくて悔しいですが、超面白いわ! しかしGood!アフタヌーンという隔月雑誌で連載されているため、単行本発売ペースは結構遅めかもしれません。スピード感たっぷりな上に続きが気になってしかたない作品で、それはもうそわそわと5巻を待っておりましたよ。 それで発売された5巻を読んでみたら、もう、はぁ。たまらない。 女子格闘技を描いたこの作品。ここからまた、一層熱い展開に突っ込んでいきますよ!


女子の総合格闘技ルールにおける一大イベント「G-girl」。 その開催に向けてテンションを高めていく女子総合格闘界。名だたる有名選手たちが参加を表明するその大会に、主人公の石堂夏央も出場を目指します。馬渡ゆず子を叩き潰すために。 ということで5巻はG-girlの新人枠を狙い集った8人による、トーナメントが開催されます。 いやぁトーナメントですよトーナメント! 鉄風3 5巻ではこの少年漫画のバトルにありがちなトーナメント形式を採用して、またちょっと少年漫画っぽい印象を強めます。もとから迫力たっぷりのバトルとか、少年漫画ファンも反応しそうな出来でしたね。今回のトーナメント形式だって、それだけなんとなくワクワクしてしまう人も多いのでは。 けれどこの作品には、青年誌だからこその「少年漫画」という感触があります。少年漫画っぽい形式をとってみてはみるけれど、実際は・・・。間違いなく熱いんだけれども、それは王道のものではない。セオリーをあえて裏切るようなひねくれたセンスがキラリと輝く。 そしてそれは登場人物の『根っこ』の部分からくる印象が強い。


まぁまず主人公ですよね。夏央ちゃんですよ。すんごい性格悪いの。 「私は充実してる人間を許さない」と、しょっぱなからすごいこと言い出します。そして強い。彼女はビギナーの段階で強すぎる。努力して高みを目指す人間たちにとっては、無慈悲なほどに。 でも結局はもっと全力振り絞って、勝ったり負けたりで喜んだり悔しがったりしたいんだろうなあ。そういう思いは間違いなくあるんだけれど、過去のトラウマやら生まれ持っての才能やらでとことんまで捻くれてしまった。全力だして努力しないと渡り合えないような相手に、出会えなかったのだ。 というわけで嫌味なくらい才能を魅せつける。性格も悪い。なんか怖い。けれど憎めないのは、その性格の悪さが見ていて気持ちいいから。 普通じゃないようで、普通で。普通なようで、致命的に普通じゃない。上手く言葉に言い表せないバランス感覚。不安定なようで、ちゃんと筋が通ってるのが不思議。 5巻にも出てきた表現ですが、「ポジティブでネガティブ」キャラというのがすごく面白いキャラクターです。 そして夏央がが目標としている馬渡ゆず子という少女もすごい。得体が知れない。 すごく強くて、すごくまっすぐで、すごく輝いていて・・そんな、まるで少年漫画の主人公みたいな女の子。性格の悪い、残酷なひねくれ者たちが闊歩するこの作品において、作中トップレベルの実力者でありながらこんな正当性を全面に押し出したキャラをしてるという。 ゆず子もこの先どうなっていくのかなとっても楽しみなんですが、どう立ち向かえばゆず子を揺るがすことができるんでしょうねぇ。 5巻では「まっすぐすぎて逆に歪んでいる」と、気になる表現がされたゆず子。これからの動きが気になりますね。 そんなそんなキラッキラなゆず子に対し「頑張ってあの子の笑顔を潰してあげよう」と対抗心剥き出し(ゆず子の充実への嫉妬ももちろん込み)な夏央。 その2人がいよいよ公式戦の舞台でぶつかるか!?という今回のトーナメントは本当に続きが楽しみで楽しみで。でもこの2人だけに集中してるのだってもったいない、個性豊かなメンバーが揃っております。 バトルシーンにおける一瞬の駆け引きもうまく描き出していますし、それでテンポを悪くしてないのもお見事。読んでいて楽しいバトルになっていますことに加え、文句なしにストーリーにも引き込まれる展開になってきてますねー! トーナメントが始まるまでの、様々な人物の思惑がからみあって集結していく様子なんか、王道の盛り上がり。やまったくもう王道なのかそうでないのか。本当に面白いことやってる作品ですよ。


さて話を変えます。前置きしておくと別にそこに特別な注目を注ぐべきではないとわかってます。作品のテーマを分かった上で、でもあえて外れたことを言ってしまうならば、「あれ?女の子がかわいいぞ?」です。 いや、この作品に登場する彼女らに向かって「かわいい」というのはちょっと的外れかもしれない。けどあえて・・・あえて言うならば・・・!・・・かわいいな。うん。 鉄風 いや違くて。ロリ夏央ちゃんのかわいさに予想外の方向から飛んできた流れ弾に撃ちぬかれた感覚を否定はしませんが、それだけじゃない。 筋肉つけてがっしりフィジカル強そうな女の子が好み、というわけでもないはずなんだけれど・・・なんだろうなぁこの感覚。女性キャラにすごく心惹かれる作品なんですよね。 格闘技というあんまり女性がやらないであろう題材の影響か、戦う女の子ロマンのそれか・・・いやそれよりもまずは、自分にとってあまりにも未知の存在だからだろうな。 みんな複雑怪奇な思考回路。よく分からない。けれどみんなたくましくて、傲慢で、性格が悪くて(もう何度もこの表現をしている)・・・そんな所がなんだか愛おしい・・・気がする。外見的なものだけじゃなく、その人物の芯の部分をもっと知りたくなるキャラクターたち。 純情で、儚げで、可憐で・・・なんてイメージ微塵もまとわぬファイター揃いです。 生理中の話とか出ると、「うわ!なんか普通の女の子っぽい話題出てきたよ!」と逆にビックリする始末。いや女の子と認識してるんだけども、この作品の女子は得体のしれない連中が多すぎてな! でも本当に純粋な連中なんですよ。ピュアもピュア。けれどそのピュアさがどこ向いてるかって、「相手をたたきつぶしてやりたい」とかそういうのですよ。うわぁ・・・。 鉄風2 個人的に我如古舞はこの5巻でビリビリッと来ましたよ!いい表情してましたね。 秘められし僕っ子属性も解禁して勢いに乗っております! しかしまぁなには置いといてもロリ夏央は天使のかわいさであるよ。うん。 こんな娘がいつのまにやら性悪女に・・・いやあある意味すくすくまっすぐ育ちましたがw


5巻で気になったポイントに、「純粋さ」と「天才」の関係がありました。 敗れた浅野選手の本間が感じた「この子、純粋すぎる……」の一節がすごく面白いなと。(181P) この作品、「純粋であること」と「強いこと」が必ずしもイコールにはなっていないんですね。純粋さがどこを向いているものなのかが、とても重要なんだろう。 鉄風3 本間が語る「大成できる人間」は2種類。業のある天才。才能が無いと思い込んでいる天才。その二種類なんだとか。意識的にでも無意識的にでもためらうことなく強さを追い求めることができる、人間。そして天才であることは不可欠だと。凡人には至れない場所があるという。 それでもってこの言葉を言うのが間違いなく天才側の人間である本間なんだから、この人もいい性格してるよなぁ。 ともかくそういう事らしく、なら夏央たちはどうかな?と考えてみたり。 夏央は前者だろうなぁきっと。どちらも多分当てはまらないゆず子の異常性が、ここで浮かび上がってくるわけですねえ。 とはいえ女子格闘技界は群雄割拠の天才だらけの様子。夏央たちはどこまでいけるかな。 夏央のまっすぐな異常性(字面として矛盾してそうだけどこれはきっと正しいはず)は、純粋さからくるエネルギーを感じますが、でも行き先が見えないものでもあるんですよね。例えばゆず子を倒したらそれからどうなるの、とか。 それと格闘家たちの会話を見ていてなんとなく感じたのが、この人たちすごく狭い世界で生きてるなーということ。自分と世界を共有できる人間としか深くは付き合って行かない。それが許される程度には強いのだ。そもそも1人で戦う世界に身をなげうってるわけで、そういう連中しかいない作品なのは分かり切ってる。 でもそういう連中だからこそ、勝つか負けるかで全てが別れる、シビアな勝負の世界が盛り上がるんだろうなぁ。


・・・と、とりとめなく思ったことをつらつら書いてきましたが、そんな感じの第5巻。 一気に読めてすごく心に印象を残してくる作品ですねえ。やはり面白い。 予告を見るに、次の第6巻は夏央と兄の過去が詳細に明かされそう? 5巻でもゆず子の充実ぶりに「それは駄目よ!!」とやたら反応をしめす夏央のシーンがありましたが、その時脳裏に浮かんでいるのは、兄との因縁が始まった日のことっぽい? かなり根が深そうなイベントなだけに、どういうエピソードか期待。 女子格闘技・・・かなりマイナーな題材かと思われますが、詳しくを知らなくても問答無用に楽しませてくれるパワーがある作品です。リアル系格闘技バトルが好きな人はもちろん、刺激的な漫画が読んでみたいって人にもおすすめしたいシリーズ。ビリビリ来ますよ、すごいキャラばかりなんで。 『鉄風』5巻 ・・・・・・・・・★★★★ 熱い、熱いよ鉄風!どんどん面白くなる雰囲気が出てて、本当に先が楽しみ。