「正直どうでもいい?」

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傑作になりえた遺作。『よいこの黙示録』2巻

よいこの黙示録(2) (イブニングKC)よいこの黙示録(2) (イブニングKC)
(2012/02/23)
青山 景

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   世界はつながってつづいているのだよいこの黙示録」2巻が出ました。・・・出ましたけど、複雑です。 作者の青山景先生は昨年10月に自殺しました。この作品は未完結です。 この2巻は連載された原稿に加えて、キャラ設定画やラフイラスト、ネームやプロットといった資料が巻末に収録されています。 永遠に続きが読めないと分かりきってる作品を買うのは虚しいわけですが、・・・やっぱり好きな作品なので買いました。そしてやっぱり面白い。面白いので感想書きたくなります。でも普段と違う気持ちで書いてます。この感想を一体どんなテンションで書くべきなのか。 1巻の感想→このクラスに神様を作ろう。 『よいこの黙示録』1巻


この作品は小学生がクラスの中に宗教を興し、それを拡大させていくという内容。 2巻では野球部にいた五十嵐くんが宗教に傾倒し、それに複雑な思いを抱く根津くんを主軸に描かれていきます。男の子同士の泥臭い友情が見所。 それだけでなく主人公の先生にストーカーがついてしまったり、森ユリカを教祖とするその宗教の名前や役職をしっかり決定して更に組織として安定感を増したり・・・ 「ここからどうなるんだろう!」とついワクワクさせられてしまうんですよ。 でもそのワクワクが気持ちよく消化されることはこれからずっとないのです。面白いからこそ余計つらいというか悔しいというか・・・。 普段なかなか描かれないであろう「宗教」という題材にあえてチャレンジした意欲作であり、好きだったポイントです。アイデアだけというワケでもなくちゃんと芯があり、作品の熱を確かに感じられるものでしたね。 小学校という舞台で、子供たちが宗教を作り組織し成長させていく、という設定も面白かった! 独特の人心掌握術が見えてくるというか、宗教がスピリチュアルなものに見えて実際はすごく作為的で計算づくめに組み上げられているという一面が描かれていました。 宗教というちょっと恐ろしいテーマを奥深くきり込んでいった内容で、なるほどを思わせられる部分も多く、読み応えがったんですよこれが。 子供が作ったおままごとみたいな宗教でも、信仰心を芽生えさせ人を操る事ができる。 かわいらしいタッチで描かれながらも背筋がゾクッとするような部分もあり。子供社会を舞台にしたからか、人間の本質に訴える光と闇がわかりやすい形で存在していたのもうまい。 作品のメインテーマの奥深さだけでなく、キャラクターがとても魅力的でした。 可愛らしいキャラクターが作品を飲み込みやすいものにしてくれていましたよなーと。 特に宗教を作り、意図的に人間をコントロールしていこうとする少年・伊勢崎のキャラクターも恐ろしいながら独特できらめくものがありました。 そして伊勢崎と朝子先生の関係も、なにやらエロさがあって素晴らしかったです。 小さい男の子にまんまと弄ばれちゃう大人の女性って・・・素敵じゃない。 伊勢崎と先生に関しては、巻末のプロットに気になる部分を発見しました。 青山先生が遺した、今後の展開の予定を書いたメモの一部です

・伊勢崎に良いように利用され、反旗を翻そうと決意した朝子がとち狂い、性的な誘惑と調教によって伊勢崎を手なづけようと試みるも、逆に伊勢崎に性的に支配されてしまう。

・・・・・・・なんだと。


と、漫画はなにより娯楽なんだってことで明るめに本作の好きなポイントを語ってきましたが、もちろん一読者としてそれだけでないモヤモヤも抱えています。 というか上の時でも、「でした」とか「面白かった」とか過去形で言ってしまうのが辛い。 青山景先生には「ストロボライト」という作品で出会って、それからいろいろと単行本を集めてました。大好きな作家さんでした。絵が可愛らしく、しかしメッセージや世界観は重厚でいつも魅了されてきました。若い人間たちがエネルギー持て余してるようなちょっとねじれた青春劇も、またとても魅力的でした。 この「よいこの黙示録」にも期待していたんですが、この作品は永遠に完結しません。それはとても不幸なことです。こんな形で終わってしまうなんて、作品が不幸です。書き方が癇に障ってしまった方がいたらごめんなさい。 巻末のプロットを読むに相当先の展開まで構想してあったことが伺えます。 未完作品のプロットをこのように公開してもらえて、読者としてはわずかながらでもこの作品の未来を知ることができて幸せかもしれません。でも本来だったらちゃんと漫画として読めたであろうことを思うとすごく複雑なのです。プロットだけ読んでも超面白いんだものこの漫画。 あああーーーーなんだかなあーあ。もっと読みたかったんだよ青山先生の漫画が。本当に。 漫画を読みだして自分はそんなに経っていなくて、せいぜい7、8年くらいなんですけど、こんな形で楽しみにしてた連載作品が途絶えてしまうってことは今までなくて、どうすりゃいいのかわからないです気持ち的には。 そんな風にモヤモヤしながら読んでたら、コミックス一番最後のページで泣きましたよ。 グチャグチャなままの気持ちがせり上がってきて爆発しそう。 だって青山景キャラが勢ぞろいでこっち見てこんな微笑んでるんですよ。これ書かれた時にはそんなつもりはなかったはずでしょうけど、結果的に自分は青山先生から「さよなら」と言われてような気がしてしまいました。


そんな風に、とても冷静には読めない作品です。 ミュージシャンのCDが死んでから売れたりしますが、この作品は内容的にも非常に中途半端なので、この漫画を手にとってもきっといい気分にはなりません。だから人にも勧められない。 でも内容がつまらないなんてことは決してなく、このまま続いていれば傑作となっていたであろうポテンシャルを感じさせます。いろんな人に読んでもらいたいのは本当です。ファンとして青山先生の作品をもっと広めていきたいのも本当です。でもこの作品に限っては事情が違う。未完作品を勧めるのもおかしな話なので。 まぁともかく、これからきっと何度も青山先生の漫画を思い出して読み返したりするはずで、今まで楽しい漫画を届けてくれてありがとうございましたというのは書いておきたい。 「よいこの黙示録」第2巻でした。未完です。 『よいこの黙示録』2巻 ・・・・・・・・・★★★★ 採点が上手くできない作品ですけど一応。本当に面白いからこそ惜しい。悔しい。