「正直どうでもいい?」

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そこは明治の港町。優しさと季節の風を感じる癒し漫画『ちろり』1巻

ちろり 1 (少年サンデーコミックス〔スペシャル〕)ちろり 1 (少年サンデーコミックス〔スペシャル〕)
(2012/02/10)
小山 愛子

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   たしかにあの子は「ちろり」だよ。 小山愛子先生の「ちろり」1巻が出ました。少年誌掲載にしては珍しいA5版。 でもこのサイズは正解だったと思います。大きな絵でじっくりと読みたい作品です。 明治時代、西洋の文化が入ってきた位のレトロな時代の中描かれる、港町の小さな喫茶店のお話。のんびりといい雰囲気に浸れる作品だと思います。心を穏やかにできるというか。


ちろりという少女とマダムの2人でやりくりしている喫茶店「カモメ亭」。 住み込みで働くちろりちゃんの日常を、季節感たっぷりに描いていく作品。 ちょうど1話が掲載されたとき雑誌の感想で触れたので、ヒマでしたらそちらも。 →静寂可憐な新連載「ちろり」が面白い!・・・他『ゲッサン』7月号 この作品の感想として言いたいことはだいたいこの記事で書いちゃってるんですけども・・・・、やはりこの1話はとても印象的でした。 明け方目を覚ましたちろりが、身だしなみを整え、自分で着物を着付けて、開店準備をする。それだけを20ページほどをかけてじっくりと描写し、その間無音状態のサイレント漫画。 愛おしそうに店内を眺める所も好きですが、やはり彼女の着付けシーンに魅了される! 少女としての幼さを残しつつ、凛々しくもあり、パリッとした緊張感すらあって。 サイレントだからこそ、実に丁寧に描かれた絵の細部を意識できる。むしろ意識するからこそこの作品を真髄を味わえるというか。 彩りある季節のめぐり。人々のざわめき。町に吹きこむ潮風。湯気とともに匂い立つコーヒーの香り・・・。しっとりと水気を含んだような雰囲気の良さに、惚れ惚れしてしまうんですなあ。 それぞれの季節の風をふんわり感じつつ、ちろりちゃんの可憐さに舌鼓。 ちろり2 ああ、いい笑顔だ・・・。 カモメ亭の看板娘とも言えるちろり。彼女の些細な心配りや頑張りやなところが、カモメ亭にやってくるお客さんたちの胸を打つんですね。 「ちろり」という名前は彼女にピッタリ。 けっして体は大きくないし、強い存在感があるでもない。けれどちょっとだけ、人の心を幸せにしてくれる。それはカモメ亭にやってくる人々のみならず、読者も。 ちろり3 マダムとちろりちゃんの仲の良さも読んでいて微笑ましいですねえ。 ちろりちゃんがマダムに向ける憧れの眼差し・・・、マダムの一挙一動にちろりも一喜一憂したり。彼女が差し向ける優しさを受け取っては顔を赤らめて。 ほんのり百合っぽい?雰囲気を漂わせつつ、それまでの雰囲気を壊すことのなく、人と人の交流や優しさを上品に感じさせてくれます。 ・・・いや、この2人の関係には色っぽさがある気がするんですよ。百合と言い切るのには抵抗ありますけれど・・・なんでもかんでも恋愛感情だと解釈してしまうのは自分の悪い癖です。


さて、この作品は季節感を重視しています。 夏には夏の、冬には冬の空気をめいっぱいに感じさせてくれる。 季節が際立つ中で、キャラクターの息づかいも感じ取れるのが素晴らしいです。 個人的に好きなのが夏のエピソード。 夏だと暑いでしょってことで、薄手の着物を着ることになるちろりですが。あまりのスケスケっぷりに緊張してしまっています。そのドキドキした様子がかわいいくてかわいくて! ちろり あと花火のエピソードもたまらない。 花火を見るために喫茶店に押し寄せてきたたくさんのお客さん。その対応するために暑い中働き詰め。花火お見ることもできず仕事に追われるちろりちゃん。 そして落ち着いてから差し出された1杯の水を、ゴクゴクと実に美味しそうに飲み干す。 汗だくになって頑張ったあとだからこその1杯。日常の中できらめく些細な幸せです。そこに静かにスポットライトを落とした、お気に入りのエピソードでした。 もともとはゲッサンの2011年1月号に読み切りとして登場した作品ですが 7月号から正式に連載となりスタートしました。単行本には第7話まで収録。 そういえば読み切りは収録されていなくて惜しいなぁと思いましたが これを改めて読んでみたら、連載版とはちょっと雰囲気が違うんですよね。 季節感を重視し、しみじみと雰囲気に浸らせる感覚は現在と同様でしたが、若干ドタバタ要素があったりしました。でもこの読み切りも好きなのでいずれ収録して欲しいなー。 作画に関して好感度たかし。情緒豊かな作品の魅力を引き出しているのは、サイレント演出にも耐えうる丁寧な仕事ぶりでしょう。 基本的に店内ばかりで展開していくのですが、そこからその季節に応じた町全体の雰囲気がつかめてしまうのがいいですねえ。和洋の空気が入り交じる明治という舞台設定も絶妙。 キャラクターはかわいくかけていますが、ちょいと首が長いのが気になるか。でもキャラクターがしなやかなラインで描かれて、自分としてはかなり好きな感じ。ちろりちゃんの表情もいちいち可愛くてたまりません! ストーリー色はほとんどなく、まったりとした感じを味わう作品。いわゆるヒーリングコミックと言えるかも。セリフ量がとても少なく、するすると読めてしまうのですが、できればゆったりと1コマ1コマを噛み締めながら味わっていきたい漫画ですねえ。 キャラや展開など、一種の「奥ゆかしさ」がツボになる癒し漫画です。 それは物腰の柔らかさというか、包み込まれるような居心地のよさというか。 季節の風と、やさしさと、ちょっとした幸せと・・・、様々なものにしみじみ感じ入ります。 あと単純に、着物を来てちまちまと頑張る女の子の仕事ぶりがかわゆい。 『ちろり』1巻 ・・・・・・・・・・・★★★★ 静寂が活きている漫画。心を落ち着けて味わいたい、上品な明治ロマン。