「正直どうでもいい?」

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繋がっていく物語が快感!人間たちの歪んだ迷宮 『外天楼』

外天楼 (KCデラックス)外天楼 (KCデラックス)
(2011/10/21)
石黒 正数

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   生まれは C404号室だ 石黒正数先生の「外天楼」。1巻完結です。 発売当初からやたらと評判がよかった作品ですが、読んでみて納得。確かにこれはすごい! 代表作であろう「それでも町は廻っている」でも、ほのぼの日常モノに時折SFな話をおりまぜ読者をドキドキさせてくれる石黒先生。 その構成力の高さは他作品を読んでもわかるとおりなのですが、この「外天楼」はまさに度肝を抜かれる。けして明るく楽しいだけの作品ではなく、むしろかなりシリアスなのですが、これはいろんな人にオススメしたいです。確かにこれは映像化されたものも見てみたい・・・!


さて、ストーリーを追っていこうにもどう書けばいいのやら。 あーだこーだと書いて「そんなわけだから面白いよ!」てとすると、それだけで未読の人のこれからの楽しみを奪ってしまう恐れがある。 しっかりと仕掛けが用意されてる作品って、予備知識ありで読んでしまうのが勿体無いですよね。身構えないままでちゃんと不意打ちをくらいたい。それが作品を1番に楽しめるかも。 後半すごいよ!ヤバイよ!というのは当然なんですが、前半だって面白い! 前半はそれぞれがまるで独立した短編のようになっていて、おどけたコメディやとんでもなミステリ風ストーリーが展開。あるいはちょっと切ないSFものとか。それぞれ単体としても楽しめるのです。 特に第1話はちょっぱなからアホらしさが満点。実に微笑ましいエピソードw 『いかにして恥をかかずにエロ本をゲットするか・・・』 それは思春期の男ならきっと誰もが頭を悩ませる、永遠の課題・・・!(なのか? 男の子たちががんばってエロ本を買おうと色々姑息な知恵を働かせていく様子は、微笑ましいニヤニヤを禁じえない。ばかだなぁこいつらw 捨てられたエロ本の内容を見て、持ち主だった人物の趣味嗜好を考察してみたり。 外天楼1 真面目にバカをやってる様子って面白い! なんて思っても、意外なところで巧妙に後に繋がっていくものだから油断ならない。 というかこの第1話、単行本を1度最後まで読んでから再読すると、なにもかもが懐かしいやら切ないやらで全然違った味わいになっています。こういうところも意図的なものだろうなあ。 前半のおとぼけコメディな装いから一転、後半はシリアスが色濃くなります。 何でもないようなシーン1つ1つが、怒涛の終盤戦に収束していく。 何度も前のページに戻ってはその緻密な構成にニヤリとさせられてしまうのです。


以下、ネタバレを含むので反転。 この作品、ちょっとした謎を残したまま終わるのもいい。 色んなサイトさんでも触れられてることは自分も同じく気になりました。鬼口に最後抵抗の意思がなかったように見えたり、結局ダイイングメッセージは本当にアリオに捜査の目が行かないように仕向けたことなのかとか。 その他だとラストシーン、アリオが倒れるシーンはなかなか気になりました。 銃弾を受けて血を流したことから、彼が人間であることを思わせますが キリエがボロボロになって死んだ次の瞬間には、突然事切れたように見えます。 負傷や流血により、体力の限界が近づいていたことは間違いないですが、それにしても倒れこむのが急すぎるというか。まるでキリエに合わせたみたいだなと。 アリオがどういうように誕生した男かを考えると、キリエとシンクロした存在なのかなぁと、ぼんやり考えてみたりします。 そんな謎を残しますが、しかし単純にこの作品のラストシーンは美しい! 切なく哀しく、どこか美しくもある静寂のエンディング。この余韻、たまりません。 ともかくこの作品の終盤の流れは素晴らしく、結末もとても印象に残りました。


こんなにどう書こうか悩んだ作品も久しぶりですが、面白い作品だというのは確実。 1度読み終えた後にも、読み返すことで新たな発見ができそうです。 というかまだ自分の中では謎が残ってるので、まだまだ探っていきたい所存。 石黒先生らしい素朴なタッチは今回も健在ですが、「外天楼」においてはその素朴さが、時折出てくるスリリングだったりホラーチックな雰囲気とのギャップを生み出します。時にはギョッとさせられるほどインパクトのあるシーンが登場したり。 装丁も高級感があっていい感じ。アリオ・キリエだけが特別になっているのも、なるほどなとニヤリとしてしまうのです。実際にカバーを手にとってみないとわかりづらいですけども。 なんか、結局どんな作品かを明確に書かずに最後に来てしまいましたが・・・ とりあえず読みましょう。きっと裏切られません。 年末年始、いつもよりまったりできる時間が多い時のおとも等にも。 1巻完結ということで読みやすいですし、内容の面白さは折り紙つき。 上質な漫画というのはこういうことか、なんて自分は思わされました。 身構えて読むよりも無防備なまま、この作品に「してやられ」ましょう。 『外天楼』 ・・・・・・・・・★★★★ 1巻完結漫画のニュースタンダードというのは納得の表現。構成力に舌を巻く。 同じ1巻漫画だと「ネムルバカ」も大好きでしたが、今回はベクトルの違った傑作ですね。