「正直どうでもいい?」

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苦しくても逃げたくても、立ち向かわなきゃ。『BUTTER!!!』3巻

BUTTER!!!(3) (アフタヌーンKC)BUTTER!!!(3) (アフタヌーンKC)
(2011/08/23)
ヤマシタ トモコ

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   音楽が鳴ってるのに ―――踊らないなんてばかだ 結構経ってしまいましたが、アフタヌーンにて連載中の「BUTTER!!!」の3巻が出てます。 社交ダンスをやる珍しい部活に入部した高校生たちの青春を描くこの作品。 今回も人間関係の空気の妙なリアルさがあり、チクリと胸が痛くなったりゾクリと胸が熱くなったり。ああ、3巻もものすごーく青春してますなあ!という感じでキラキラした1冊。 苦しくても逃げたくても、立ち向かわなきゃ。踊らなきゃ!


2巻は端場くんの変化にぶっちぎりにテンション上がりましたが(2巻の端場くんは破壊力抜群でニヤニヤ転げまわりましたとも)、3巻は柘さん&掛井くんペアにスポットライトが。 もちろん他のキャラも置き去りにはしていませんが、今回おっと思わせられる変化を遂げたのは間違いなくこの2人でした。 ●個人的にはまず、げっつこと柘さんがメインの第12話がすばらしかった。 柘さんは自分の容姿や性格につよいコンプレックスを持っている女の子です。 理想であるお姫様のような女の子像からかけはなれた、周囲と比べてもかなり大きめな身長や体格をひどく気にしている。また昔にそれを理由にからかわれたこともあり、彼女は自分に自信が持てないままでした。イヤでイヤでしかたない、自分。 しかし彼女は、端場くんのふとした行動から勇気を得ます。 状況は違えど、端場くんもある種の周囲との「戦い」の只中にいる。普段見えないだけで、たぶんきっとみんながなにかと戦っているのだろうけれど、でも端場くんは自分(柘さん)よりも一足早く、決意を持って一歩を踏み出していた。 誰かが誰かに、知らないうちに影響を与えている。いいですねえ、普段特別仲良くはなさそうな柘さんと端場くんですが、この時柘さんは「端場くんは戦ってるんだ」と自分を鼓舞したのです。 これはつまりライバル意識。前向きで情熱的な、とてもいい前進だなと。 20111010000811.jpg 第1話、登場したばかりのころの柘さんがこんな感じ。 今までの柘さんはこういう大きな眼鏡。光の反射やらで目が見えることも少なかったです。 そしてみんながいる場面であまり自分を強く出すこともしない。キライな自分から変われない己の弱さにストレスをため込んでいたようにも見えます。 ところが今回、彼女は変わりました。 20111009234217.jpg うむ、かわいいじゃないですかー! 前髪もアップにして、メガネも縁が太めでくっきり顔を見せるものにしています。 これには端場くんもビックリ!(それってハードル低そうなのが問題だけど) 端場くんを睨みつけてちょっとヤケっぽいのもかわいいなぁw 彼女自身まだきっとビクビクしてると思うけど、これは大きな一歩です。 まずは外見から、そこから自分の世界を変えていこう。 こんな風に、心の中の壁を乗り越え、皆それぞれが成長していく様子がこの作品の醍醐味! でも端場くんが柘さんのかわいさがわからなかったのって、仕方ないような気も。漫画だから読者は俯瞰的に状況や人物を見れて、ああこの娘は実はかわいいんだなってわかります。でも実際端場くんの立場にいたら、彼女にうまく踏み込んでいけないんじゃないかなと。 「男子ってなんでそんなバカなの!?」と女子たちは文句を言うけど、仕方ないと思うんですよね。柘さんは自分を周囲に見せるための・わかってもらうためのわかりやすいスキが少なすぎたんですよ。外に開いていなかった。それを汲み取れるのは同性か、女の子に慣れてる男の子。うん、端場くんは・・・。 だから新しい柘さんは、前よりずっとずっとかわいい。それは外見的な変化にも、扉を開けてくれた精神的な変化にも言えることです。 端場くんに感情移入しがちな自分がなんとなく言ってみた。ちょっと無駄話。


●そして掛井くんも、今回一皮むけましたね。一皮どころじゃないかも。 彼は世渡り上手すぎて、無意識にトラブルを回避しようとする性格。それはそれで大切なことなんだけれど、彼自身がどうしたいのかが見えてこないため、それが逆に人間関係に違和感を生じてしまいました。 不良だった実の兄に迷惑をかけられた過去を持ち、「自分はあんなふうにはなりたくない」と意識に深く刻まれてしまったことで、彼は全力で他人とぶつかりあえないようになってしまったのでしょう。 ということで今まで部活メンバー内ではかなり良心的でイイヒトなキャラクターだったのですが、この3巻はついに、今まで彼が「いい人」だったからこそのイザコザが起きたと。 なので、彼が声を荒げたり殴りあいのケンカまでしてしまう場面にはなんかそれだけでニヤニヤしてしまいましたねー!無意識のリミッターを外し、彼はもっと自由になれました。 というか柘さんの時も合わせると、端場くんってこの部活において結構重要な立ち位置にいる気がします。夏も彼に動かされましたね。ダメな男の子なんだけど、そこが愛らしい、面白くて大好きなキャラクターですね彼は。 ●さてそんな端場くんのダメっぷりが炸裂するのが第13話! 自分もたまについついやってしまうのでチクリとしましたが・・・「分かったフリ」の話。 だってまわりのみんなが理解できてるのに自分だけわかってないってバレたらハズかしいし、そんな自分のために説明の手間をかけさせるのも申し訳ないし、もしかしたら実践でつかめるかもしれないし・・・なんて言い訳ばかりして、恥をかかないようにのらりくらり。でも結局見透かされている。 そんでもって胸をはって頑張ることができないのも、なんだかシンパシー。 『頑張る』のって、なんか必死みたいで恥ずかしい・・・かも? だって本当に恥ずかしいしなあ。ダンスを頑張るなんて、これまでの自分だったらありえないし。何かに情熱を燃やすってことにも多分これまで経験がなかった。それを他人に知られるのって。 20111009234204.jpg でもいい。見栄をはっても仕方ないし、自分をまっすぐ受け止めよう。知ったかぶりはもうしない。カッコ悪いって笑われたっていい。自分は『出来る人間』なんかじゃない。 みっともないプライドは捨ててしまえよ。


ということで「BUTTER!!!」3巻でした。 華々しいダンスシーンは少ないですが、人間の成長を丁寧に描かれていました。 それがこの作品に求める大きな要素なので、今回も大満足です。 ヤマシタトモコ先生の作品の人間同士の距離感・空気はもともとかなり好きなのですが、「BUTTER!!!」のそれは青春漫画として可愛らしくもあり、自分にとってひどく生々しいものでもあり、なんにせよとにかくグサグサ胸に届いて刺さってくる。この感じがたまらない。 この作品で描かれるものの多くは主人公たちのトラウマや心のネガティブな部分だったり、若さが故の失敗だったりと、決して明るいばかりの青春ではありません。 だからこそ、一歩進んだ瞬間のきらめきがすごいなあって思ったり。 思春期のもやもやした感覚と、決意と情熱でもって1つ1つ問題を解決していく様子もまた! まさに、とびっきりの青春が繰り広げられるシリーズ。応援したいです! いたい!でも気持ちいい! そうそう、巻末にある中学時代の高岡&二宮先輩の話もニヤニヤしますね! この2人の雰囲気もとても好き。そろそろこの2人に関する話も本編で来るかも? 『BUTTER!!!』3巻 ・・・・・・・・・★★★★☆ 静かに熱く湧き上がる興奮!傷ついて倒れても負けるな踊れ。青春だ!