「正直どうでもいい?」

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ヒミツを抱えあう19歳の三角関係。『ヒメゴト~十九歳の制服~』1,2巻

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(2011/08/30)
峰浪 りょう

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   十九歳の下半身は ひどく蒸し暑い―――――― 「ヒメゴト~十九歳の制服~」です。2巻の表紙を新刊コーナーで見つけた瞬間ビビッと来て、1巻と同時に購入。なんですかこの表紙ー、Sっ気強そうな黒ロンちゃんが裸で制服を咥えてこの表情ですよ。何事かと思いました。これは釣られざるを得ないというか。 買ってから気付いたのですが「溺れる花火」の作者さんの新作だったのですね。 前作から表紙の塗りの雰囲気などがガラリと変わっていてビックリ。 内容は、19歳の大学生3人を中心に描かれる、不思議な3角関係もの…という感じです。 エロ要素も少なからずある作品ですが、つい引き込まれてしまうストーリー展開。

ヒメゴト~十九歳の制服~ 1 (ビッグ コミックス)ヒメゴト~十九歳の制服~ 1 (ビッグ コミックス)
(2011/04/28)
峰浪 りょう

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1巻から一気に読んだので、1巻2巻合わせての更新となります。 簡単なあらすじはこんな感じ。 女子大生・由樹(ゆき)は、女の子らしくすることが苦手な女子大生。ボーイッシュな風貌や性格から、昔から「ヨシキ(漢字の読みを変えて)」のあだ名で呼ばれています。 それに安心と、かすかな違和感を抱えている彼女には、とある秘密が・・・・・・。 そしてそんな彼女と、偶然知りあい、心惹かれていく人物が2人。 雑誌の読者モデルもしている女性的な顔立ちが特徴的なイケメン・佳人(カイト)。 大学内ではおしとやかなお嬢様、けれど裏の顔は・・・?な2巻表紙・未果子(ミカコ)。 この3人それぞれの『秘密』が絡み合う人間ドラマとなっています。


この作品を手に取るきっかけになった未果子ちゃんですが、なんとも期待通りの活躍をしてくれる、実に自分好みなキャラクターで最高ですよもう! ということで今回の更新、ほとんど彼女の内容です。黒ロン祭はまだ続いてるんだよ! 普段はぽやぽや天然系お嬢さまなキャラを大学で演じている彼女ですが まっ黒な制服に身を包み、自分を15歳だと偽って援交をしているという秘密があります。 夜になると本来の性格をガンガン見せつけてきて、そのギャップにときめいてしまうのです。 サディストというか、とにかく男を存在として見下している。 20110907233822.jpg(1巻160ページ) このシーンがすごい印象的。実際の大勢としては作中の男性が言ってる通りなのですが、構図として明らかに未果子が彼を見下してるふうに描いています。 彼女の心理がとてもわかりやすいカット。男を利用し遊び、なめきってます。素敵だ。 「男に見下されるのは絶対にイヤ」というようなことも言っており、根が深そうです。 そんなとんでもない彼女ですが、主人公・由樹の前でだけでは様子が変わってしまうのがまたかわいすぎるのですよ・・・・・・!男と寝てるときには淀んでいる瞳がキラキラに。 体調を悪くした彼女に由樹が手を差し伸べると、彼女をぼんやり見つめ「トクン・・」と胸高鳴らせていました。「この女陥落たっ!!」という感じですがこの後のアクションも異様に素早い未果子ちゃんまじ恋する女の子。さっそくトイレの個室に由樹を連れ込んでちゅー。 「女の子同士のキスは回数には入らないらしいから…」と卑怯な必殺文句も囁きます。 また2巻からは、由樹に付きまとう男に対して攻撃をはじめたりも。 由樹への興味をそらすため、自分の身体で彼を誘い、好意を自分に向けさせようとするのです。清純な思いをつらぬくために身体を利用するという、不思議な矛盾。 でもその女の子らしい柔軟さとしたたかさこそ、未果子さんの最大の魅力と言える部分ではないでしょうか。恋のためならいくらでも卑怯になれてしまうんですね、このヒトは。 「由樹も自分のことを好きなんだ!」と勘違いしてニヤニヤ浮かれてる様子もいい・・・!


続けて彼女の言葉にはあまりされていない深層心理も考えてみたいです。 彼女が抱えるコンプレックスは、間違いなく『年齢』です。 なぜ普段から化粧もせず、15歳だと偽って援交を続けているのか。「本当は19歳なのに、15歳だと言って男を騙せた」ということで、自信を得たいのでしょう。 けどそれは結局のところ、見下した存在である男たちから逆説的に与えられる自信に過ぎず、心の底から彼女を満足させてくれるものではない。コンプレックスをより深めていく行為とも考えられます。 20110907233814.jpg(2巻87ページ) 妄想の中では、未果子は19歳の自分そのままを愛してほしいと思っているはずなのです。 それを男性に求めないのは、2巻の第14話あたりにもほのめかされている彼女の過去が影響しているのだと思います。この件で成人男性へのトラウマと失望を持ったと想像。 そして由樹だけにはありのままの自分を好きになってほしい・・・そんな女の子らしいかわいらしい願望を持っているのが興味深いですね。 由樹がなぜ魅力的なのか、それは「男」じゃなく「男の子」だから、ということを言っています。いやユキは女の子なんですけども・・・。でも未果子は、由樹を男性役にして、自分のトラウマをえぐられないようなやさしく甘い恋愛関係を望んでいるとわかりますね。由樹を「ヨシキ」とよんでもいます。 まぁそれは、本当は女性らしくなりたいという潜在意識を持つ由樹からすれば、応えるのがやや億劫でもあるわけで。なかなかうまい落とし所を見つけられないのがもどかしくて面白い。 まぁともかくこれらから思ったのは、未果子はきっと、理想の自分や恋愛へのビジョンが、子供のころのまま止まってしまっているということです。 ショタっ子にいたずらしちゃうえっちぃお姉ちゃんなイメージですねえいやぁたまりません。大人の男性が気持ち悪いから、そうじゃないところに安らぎを探しているのです。 そんな彼女が、どんどんと複雑になっていくこの物語においてどんな変化を見せてくれるのか。そこ個人的には本作で最も気になるところです。 いンやーかわいいじゃないすか未果子!


未果子へのあれこれを書いたので、以下他に気になる部分を。 佳人(カイト)はとても気になるキャラクターです。話を動かしていくパワーは彼が1番ある。 彼には女装癖があり、理想の女の子像として未果子にあこがれを持っていて、こっそりと彼女の私服ファッションをまねて街を歩いて「女の子」を味わって楽しんでいます。 ひょんなことから彼が由樹と付き合っているという嘘をつく必要が出てしまい、ストーリーが転がりだすのですが、彼と由樹の関係も、この作品の大きなテーマです。 佳人としては、女装癖を唯一知る女の子である由樹と、気兼ねなく「女の子」として楽しむことが楽しくて仕方がない。佳人は女友達という単語をよく使います。由樹と女友達としての関係を望んでいるのです。 でも由樹は女装しているはずの佳人に「男」を感じてしまい、それに焦がれるようになってきています。由樹は、佳人と男女の関係になることを望んでいるみたい・・・? 20110907233819.jpg(2巻126ページ) そして物語を動かしたこのキスシーンも気になります。 あ、右側にいるのは未果子ではなく、未果子の格好をしてる佳人♂です。 キスは佳人からしたのですが、これは女としてしたのか、男としてしたのか。 佳人の中でも、由樹とどう付き合っていきたいかにブレがある感じです。 友情と恋愛。男と女。ちょっとおかしな面白い人間関係になってきました。 この2人だけでも面白そうなのに、未果子もばっちり介入してきますし、他の男もだんだんと物語に噛みはじめてどんどん面白さが加速していってくれそうな期待感がありますね! 主人公が女の子でありながらもそうなりきれない「少年性」を持ち続けていることで、ギリギリの均等が保てている関係。なので主人公がどんどんと変わり続けることは、この作品内の人間関係が常に動き続けていることになります。どう転がっていくのやら。


ということで「ヒメゴト~十九歳の制服~」でした。 今回は未果子さんにスポットライトをあてた更新になりましたが、本当は由樹も佳人もちゃんと文章に書いて考えをまとめてみたいですねえ。 それぞれのキャラクターがよく練られおり、つい語りたくなるんですよね。 各キャラのコンプレックスや、男の汚さ、女の汚さ、そしてたくましさが描かれた、恋愛だけじゃない人間ドラマには夢中にさせられてしまいます。 形としてはひどく歪んだものですが、純粋な想いでつながっているのです。 周囲で繰り広げられるややドロドロした展開の中でこそ、それがひときわ眩しい。 高校を卒業し「制服」を手放した19歳たち。自分たちの性別や年齢を公式に証明してくれるものをなくしてしまった彼らは、どのような自分らしさを見つけていくのか。 十九歳の制服って、どんなものだろう。 20110908005807.jpg(2巻81ページ) 面白くなりそうな設定、キャラクターはまだ潜んでいそうで、これからどんどんと盛り上がっていってくれそうです。根元くんのダメ男っぷりにもワクワク。いやぁ3巻が待ち遠しい。 『ヒメゴト~十九歳の制服~』1,2巻 ・・・・・・・・・★★★★ 後ろめたさやコンプレックスを描くのでやや重いですが、不思議な人間関係がおりなすドラマは「はやく次を読みたい!」とじれったくさせられる面白さ。色っぽい漫画です。


以降の巻 歪み絡まる19歳たちの性。『ヒメゴト~十九歳の制服~』3巻 友達でも恋人でも足りない気持ち。色めく19歳の夜。『ヒメゴト~十九歳の制服~』4巻