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夢見た世界で、永遠の太陽は輝く。 『きみのカケラ』9巻

きみのカケラ 完結記念!イラスト集同梱限定版!! 9 (小学館プラス・アンコミックスシリーズ)きみのカケラ 完結記念!イラスト集同梱限定版!! 9 (小学館プラス・アンコミックスシリーズ)
(2010/07/16)
高橋 しん

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   太陽は ずっとずっと ここにあったんだよって。 最終巻。 8年もの長きにわたり、特殊な形で続いてきた「きみのカケラ」もついに終了。 まずはこの作品を完結させてくれた高橋しん先生に、感謝です。 自分の中でもとても大切な物語になりました。 最終巻なので、まぁ色々語りたいところはあるんですけども 目いっぱい書きたいこと書いて、未読の方がこれから味わうであろうこの衝撃と感動を薄めてしまうのは駄目だと思うので、今回はさっくりと。 ・・・すいません、時間がないことの言い訳でもあります。 さて、最後の冒険が始まりました。 線路の先にあったのは、失われた科学の灯が燈る、無人の街。 20100826234833.jpg いったんはシロと別れて、子供達と街を探検するイコロちゃん。 その中で例のウサギっぽい生き物を発見、その後追っていく子供達は いくつも積み重なった『バケモノ』たちの残骸と、太陽を発見します。 そしてその場に、死んだと思われていたあの人たちもやって来たり。 最終章というわけで、派手なバトルを繰り広げる華のある展開が続き 非常に満足のいく内容となっていました。おなかいっぱい。 20100827014204.jpg 戦うイコロちゃんは勇敢でカッコいいのです。(そしてもちろんかわいい) 印象的だったのは、イコロが「太陽なんていらない」と言ったこと。 争いや命と引き換えの希望など必要ないと、言い切ったことです。 ここの流れはこれまでの物語を考えると、まさに万感の思いが胸に沸き起こります。 本当の勇気が試される選択。 子供達は一緒に歩む世界を望み、それを叶えていくのです。 本当はもっともっとたくさんの素敵な場面を紹介したいのですが この作品で言う「美味しいシーン」は、未読者にはなんのこっちゃ状態ですし 何より、なんというか簡単に見せてしまうのがもったいない。 やはりここは、ぜひとも自分の目で見てください、とだけ! そして今回の表紙イラストもいい。 よく見ると、ここは壁の中だとわかります。 幸せにしてくれるものを探すのではなく、自分たちから幸せになろうとするその意思。 この作品らしいと言えば、らしいよなぁ。 しかし大佐の、妹に対するモノローグは・・・・・・思わずぶわっとこぼれました・・・。 いよいよラスト。 絶望だらけの世界の行く末は。 ヒトガタであるイコロとシロの未来は。 笑えるのか。 涙を流せるのか。 幸せになれるのか。 20100826234810.jpg ありがとう、さようなら。 永遠に続く、子供達のおとぎ話。 決して手を離さない少年と少女の―――2つのカケラの物語。 ちなみに限定版に同梱されているイラスト集には、各巻表紙イラストや 単行本収録時にモノクロになったカラー原稿、単行本未収録イラストなどが収録。 単行本的ではない、イラストとして表紙を改めて見るのもなかなか面白いですよ。 高橋しん先生のカラーは本当に幻想的で美しいです。 そして実は最終兵器彼女の画集を未だに手に入れられてなかったり。再販して欲しい・・・・。


んでここからはちょっと話が変わりまして、考察のようなことを。 多分みんな思ってるんじゃないかと思いますが、この「きみのカケラ」は、同じく高橋しん先生の「最終兵器彼女」と繋がっている作品なんじゃないかなとか考えます。 イコロの本名は「カムイ・ポロ・チセ・イコロ」。 この4つの単語は高橋先生の出身地である北海道に伝わる、アイヌ語です。 カムイ→神、ポロ→大きい、チセ→家、イコロ→宝。 この内「チセ」は最終兵器彼女のヒロインの名前でもあり、意味は作中でも言及されています。 それに合わせて少し話しが逸れますが、最終兵器彼女外伝集-世界の果てには君と二人で-収録の「スター★チャイルド」のラストには、こんなセリフが。 20100827014216.jpg この「スター★チャイルド」は作者自身が「最終兵器彼女の後の世界をテーマにした」と述べるように、サイカノ本編との関連性の強い短編で、ここで「チセ」の名は、これから先の世界に受け継がれていく・・・みたいなことを示唆しています。 はじまりの人間の名・・・それが神話のように、受け継がれていくこともあるでしょう。 さて「きみのカケラ」を見てみると、ありますね「チセ」。 それも、世界から守られた特別な存在である王族に「チセ」の名がある。 これは「最終兵器彼女」→「スター★チャイルド」→の流れにこの作品もある、という仮定にちょっとだけ信憑性を与えてくれるやも知れません。 (サイカノファンとしてはやや複雑に思う点もありますが、しかし未来はあるべきか) そしてこの仮定を頭の隅っこにおいて物語を読むと、 作中では明かされなかった様々な謎に対する答えも見つけられます。 毒まみれだった壁の外の世界は、「最終兵器彼女」での戦争で汚染されきった大気か、または戦争という大罪に対する罰か。 失われた科学はそのまんま。一度壊れた世界なので、モノは残っても科学力は無し。 「太陽」は、例えば戦争中に作られた何か特別な気象兵器とか・・・? ・・・まぁこんな感じで、若干こじつけっぽく脳内補完できる、は・・・ず?(弱気 やっぱり、そういう可能性もあるかも知れませんねーくらいでとどめておきますか。 読解力のなさが露呈してきましたね、はっは。


ではまとめのようなものを。 正直に言うと、読みにくい作品です。難解ですし、少しテンポ悪いと思った時期もあります。 しかしそれだけの理由でこの作品を最後まで読まずにいるのはもったいない。 ラストで得られる、このなんとも形容しがたい感動と興奮・・・! 自分は連載時サンデーを呼んでいなかったので、連載版がどのような結末だったかは残念ながら知らないのですが、単行本は一冊まるごとだったり半分だったりが書きおろしである単行本の状況を見るに、だいぶ印象が変わっているのではないかと思います。 改めて、この作品を完結させてくれた高橋しん先生に、感謝。 多くの人に届いて欲しい、少年と少女のファンタジー 愉快で切なくて美しい、素敵な作品でした。 20100826234838.jpgきみのカケラ』9巻 ・・・・・・・・・★★★★ 最終巻。ここに至ってこその作品。彼らは太陽になりました。 先月くらいにサンデーに掲載された双子作品「スピカ」も、これまた良い漫画でした。