「正直どうでもいい?」

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笑顔が素敵なヒロインズ。あなたに恋したあの季節。 『夏のかけら』

記事のタイトル、ムダに韻を踏んでる感じが我ながら恥ずかしいですね・・・埋まりたい。 夏のかけら 夏のかけら    思い出すのは あの日の空 天乃忍さんの短編集「夏のかけら」。 時期を合わせてみたかったのですが、少しズレたかな・・・まぁいいや。 連載作「片恋トライアングル」が大好きな自分ですが、そもそも偶然に手にしたLaLa増刊で「恋のかけら」を読んで天乃さんを知ったことがきっかけだったわけで・・・!そういう意味で自分にはたまらない1冊なのです。 この短編集は天乃さんが過去に執筆した読みきりを5作収録。 どれもこれもが素晴らしく胸がキュンとなる作品ですので、さくっと全部に触れてみます。

夏のかけら

表題作にして、ある意味、卑怯。 夏休み×田舎で強力に郷愁感を誘いつつ、加えて病弱モノ要素を混ぜ込んで さぁ来い!そして泣け!とやる気マンマンの臨戦態勢。 それだけならどこか引いて読んでしまうのですが、天乃さんの可愛らしい絵も安定しており 文句なしに魅力的かつムダのないストーリー展開にも唸らされる秀作なのです。 意地悪なくらい切ない、王道の恋愛漫画となっています。 ストーリーは分かりやすいです。 夏休み、祖父を見舞いもかねてとある田舎町にやってきた美雪。 祖父の入院先で偶然知り合った少年・円と仲良くなっていくが 彼は重い病を患っており、もはや長い人生を望むことは不可能とも言われてた、 恋心が深まるたび、どうしようもない現実が美雪を苛める・・・。 いわゆる「お約束」をしっかり踏まえた設定をしています。 出会ってからすこしずつ関係を深めていく2人の様子はとても微笑ましい。 けれど美雪の中の円がどんどんと大きくなってき、彼女がそれを意識するたびに ずっと一緒には居られないんだ、という事実が恋にブレーキをかけようとする。 けれど止められるわけもがなくて、どんどん膨れ上がる感情に戸惑う美雪の姿がかわいくもあるし、キュッと痛みを感じるくらい、切ない。 飄々としている円も円で、ふと弱い部分がムキ出しになってしまってもすぐそれを取り繕ってしまうのも、なんだか痛い。 もっと甘えてしまえばいいのにと思うけれど、多分彼はそうできないんだろうなぁ。 何かを遺してしまえば、自分が居なくなったあと、大事な人が苦しんでしまうだろうから。 そういう2人だからこそ、この物語はとても愛しいものなのです・・・! そして物語は佳境へ。 叶わない恋だと薄々分かってるのにそれでもお互い僅かな一歩を踏み出した瞬間、つまりはあの風に吹かれたカーテンで隠れたキスシーンは、それはもう飛び上がるほど胸がときめいてニヤニヤしましたが、それを上回るほどのセンチメンタルがLOVEずっきゅん。なんと美しい、儚いキスでしょうか・・・・・・2人とも、これで何かを悟ってしまったんじゃないかなぁ・・・終わりだって。 そして予想通り、ラストシーンでは俺は泣きましたとさ。ちゃんちゃん(´;ω;`) 20100825013611.jpg 何も残さないように、未練も後悔もないように生きようとした円。 けれど美雪と出会って、ほんの少しの夢を見てしまった。 一緒に居たい人が、出来てしまった。 大事な大事な、あの夏の、一瞬の思い出。 夏のかけら。 予想以上に長くなってしまいましたが、もう大好きなお話です、これ。 一度読んだらもうこの単行本の表紙を見るだけで胸がいっぱいになります。 こんな綺麗な光景、そう見れるものじゃありません。

雪のかけら

季節は変わって今度は冬。 これは次の「恋のかけら」とリンクした構成をしており、合わせて読むとより楽しめます。 1つの恋が実れば、それによって人知れず散る恋もまた存在する。 そしてこちらは失恋サイド・・・、といってもあまり重苦しい感じではないのが救いか・・・? 遠野くんはもちろん本気で紺野さんのことを好きだけど、 最初から諦観してるというか、常に切なさを匂わせてくる男の子。 紺野さんには好きな人がいて、それは自分じゃないと分かっていて、でも好きなんです。 主人公の菊池はそんな彼を見守る友人という立ち居地。 失恋ありきのストーリー展開なので、結構辛いです。 作中でたっぷり遠野君の恋してる様子を見せつけておいて、ですから。 けれども、遠野君はカッコいいんだよなぁ。 好きな女の子のために、彼女の恋が実るように行動する。 そりゃ悔しいだろうし、悲しいだろう・・・・・・けれど好きな人には、笑っていて欲しいんだ。 そして彼女のために、彼は自ら失恋したのです。まじ心までイケメン野郎。 そんな彼の姿を見て泣いてしまう菊池さんも、また切ないうえにかわいいのです世・・・。 ジレンマだな・・・幸せになって欲しいけれど、それを叶えられるのは、自分ではない。 そういうモジモジしてきそうな関係が、この作品の魅力です。 タイトルにある「雪」も結構重要な要素として描かれており、季節感も良い感じ。 降り積もるだけで何も残らず、いつしか解けていく・・・・・・上手い表現だなぁと。 20100825013625.jpg そしてコレである。 天乃先生の描く女の子の笑顔は至高です!

恋のかけら

「雪のかけら」のアナザーサイド。今野さん主役。 3作目にしてようやく最初から最後までほんわかできる恋愛漫画です・・・ふぅ。 しかしこの裏側(雪のかけら)を思うと、これもなんだか切なくなってきてしまう。 まぁ現実にも、感知できない別の物語はどこにだってあるだろうし、そういうものか。 さて、ころころぽてぽての紺野さんがとてもかわいいわけですが 自分はなにより彼女の笑顔がたまらないのです! 本当にやわらかい、ふわっとした笑顔。 終盤の涙を浮かべながらのそれの破壊力はかなりのもので、陥落は当然と言えます(キリッ 20100825013629.jpg (クリック拡大) 雪を桜の花びらに見立てるのが面白いなぁと。 相手の近藤先輩はもう3年で、次の春で卒業です。そして春と言えば桜。 つまり、紺野さんを追いかけて自分の想いを伝えた近藤先輩は ある意味ではこの瞬間に自分の殻を破った、過去の自分を卒業した、みたいな読み方も。 ちょっと無理矢理な感じはしますが、自分はこれでまたしてもニヤリ。

春待ち草子

冬に続いては春。 作家である父の生み出した童話の世界に入ってしまった主人公・日向。 彼女のミスで散らばってしまった、父の遺作を集めにいくお話です。 不思議な童話世界を歩いて回る様子は、ちょっとワクワクしてきますね。 それを通して様々な記憶・感情を取り戻していくのもナイス。 作中ほとんど笑わなかった日向ですが、最後はにっこり微笑んでくれましたし 素直にほっと一息つけて笑顔になれる短編になっているんじゃないかなと。 恋愛漫画だけでなく、こういう作品もあるのが良いですね。

秋色 君色

ここで秋登場、四季コンプリート。 恋愛に憧れる主人公・かのこが偶然電車内で出会ったのは、無愛想な少年。 積極的に仕掛けていく彼女ですが、その少年・伊原は体がかなり悪いとのこと。 無愛想で捻くれものの彼は、かのこをこれっぽっちも相手にしません。 しかし何度も2人の時間を重ねるにつれ、そんな彼らにも互いに少しずつ・・・? この短編集の中では一番古い作品ですが、それほど違和感はありません。 というか、主人公が前のめりでアホな生き方してるのがいいなとw 「そんなワケでちょっくら告白してくるわ!」と惚れたその翌日に言っちゃうかのこ。 でも伊原との時間の中で、彼女に明らかな変化が生まれるのです キャーキャー騒ぐだけではなく、相手を想ってちょっと感傷的になったりとか。 恋に恋していた彼女が、本当の恋に落ちていくのがグッときますね・・・!! そしてこの作品でも、笑顔というのが大事に描かれています。 最初はかのこのことを歯牙にもかけない伊原でしたが、 20100825230651.jpg 彼女の笑顔に目を引かれて、彼は初めてかのこと向き合います。 自分という人間に何度も傷つけられただろうに。遠ざけようとしたのに。 それでもいつものように笑いかけてくれた彼女。イイヨイイヨー。 ラストもとても綺麗で、うまくまとまっているなぁと。 舞い散るイチョウの葉も、なかなか味があって素敵です! 以上、そんな感じの一冊。 とても季節感を大切にしている短編集です。 それぞれの季節に合わせた雰囲気が出ているなぁと。特に「夏のかけら」の空は・・・。 そして何より、恋してる女の子男の子の表情が、とくに笑顔が、素晴らしい。 笑顔を持ってくるタイミングも、またよく出来てるというか・・・! 人の表情というのは、とても魅力的なものなんだと再確認です。 切ない恋愛が読みたい方にオススメできると思いますし とても可愛らしい絵なので、男性もスルリと読める作者さんだと思います。 来て欲しい展開にスコーンとハマる、色々気持ちいい作品集でした! 『夏のかけら』 ・・・・・・・・・★★★★ 天乃忍さんの魅力が詰まった一冊。いやはやこの笑顔はたまりませんな。